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May 01 オリジナル小説 第五十弾!! ウルトラマンA THE ZERO 第五十章 総力戦
それは過酷な戦いだった。
レナードは、ブラックガロン・サタンモアの二体を相手に戦うのだ。 頼みのアイ・スラッガーを落としたレナードは、それを拾う事も出来ないまま、ブラックガロンの舌に苦しめられていた。すると、身動きの取れないのをいい事に、サタンモアは執拗に彼を鋭いクチバシで突いた。 これらは、彼の体力を確実に奪っていった。 (せめて、相手が一体ならば…) レナードは思った。 しかし、ルナの助けは期待できない。 (もう…駄目か…) 諦めかけたその時だった。 「ギャー!」 突然サタンモアが悲鳴のような声を上げた。 見ると、サタンモアに、どこからか攻撃が加えられていた。 タケダ大尉の部隊である。 「ようッ。この鳥は俺たちに任せて、お前はそいつの方に専念しろ!そいつには、俺も借りがあるんだ。代わりにたっぷり返してやってくれ!」
タケダはそう叫んだ。 本当に通じたのかどうかは分からないが、レナードは大きく頷いた。 それを見て微笑すると、タケダは、 「よしッ。全機俺に続け!こいつだけは、何が何でも俺たちだけで落とすぞ。いいな?」 と、通信機越しに叫んだ。 「了解!」 部下たちの返事が続々と返ってくる。 部隊の戦闘機5機は、隊長機を先頭にVフォーメーションのままサタンモアに正面攻撃を加えた。
「ギャー!」 そんな悲鳴とも雄たけびともつかない金切り声を上げると、サタンモアの体表に開いた穴から、何かが次々と吐き出された。 「何だ、あれは…?」 それは、小型の怪鳥――リトルモアだった。 同じ頃、宇宙では、復活したルナがマゼラン星の恒星間弾道弾と対峙していた。 それは、恐ろしい勢いで地球目掛けて前進している。 ルナは、それに立ちはだかるようにして正面に回ると、 「デュワ!」 ウルトラギロチンを発射した。 歯車状の光の円盤が、恒星間弾道弾の弾頭を目掛けて飛行した。 しかし、命中した途端、それは脆くも砕け散った。 「畜生!傷一つ付いてやがらねぇ!」 「何て頑丈なミサイルなんだ!」 ビリーとアルバートはそれぞれに言った。 しかし、ルナは冷静だった。
それが、クレアと一体化したためかどうかは分からない。しかし、確実にそれ以前の彼とは違っていた。 「シュワッ!」 ルナは飛行態勢に入ると、一旦ミサイルの後方に回り、そこからUターンして真横に並んだ。 「あッ!ミサイルに並んだ」
「一体どうする気だ?」 すると、ルナは水平移動してミサイルに近づき、やがてその上に跨った。
ルナは透視能力を発揮して、ミサイルの内部を透視した。 (見えたぞ!) それはミサイルを制御するコンピューターだった。 (これさえ破壊すれば…) ルナはおもむろに右の拳を振りかざした。すると、ドリル状の光線が現れ、その拳を包み込んだ。 ドリルパンチである。 エネルギーを充実させると、その場所に思いっきり拳を振り下ろした。 かなりの抵抗があった。 大気がないので耳には入らなかったが、恐らくものすごい音がしたのだろう。 しかし、ルナは決して力を緩めなかった。 頑丈な装甲版を、ルナの拳がゆっくりと、しかし確実に侵食していく。 そしてある瞬間、フッと抵抗が消えた。 装甲を貫通したのである。 ルナは拳を除けた。 すると、ぽっかりと開いた穴の向こうには、このミサイルの頭脳たるコンピューターが見えた。 「ヘヤッ!」 ルナはミサイルから離れた。 そして、その真上に行くと、メタリウム光線を発射した。 鮮やかな三色の光線が『ある一点』を目掛けて直進した。 光線はやがて、先ほどの穴に吸い込まれていった。そして―― 爆発、閃光。そして、消滅…。 星々に死をもたらす無人の悪魔は、宇宙の藻屑と化したのである。 ルナは、暫くその散らばった残骸を感慨深げに見つめていた。
(勝った…。僕たちは勝ったんだ!) その時だった。
彼の脳裏に、ふいに何かが流れ込んだ。 『ルナ!』 それは、苦しむレナードの声だった。 (レナード!) ルナは、その一言で全てを悟った。 「デュワ!」 そう叫ぶと、ルナの身体は眩い青い光に包まれ、やがて消えた。 「どこへ消えたんだ?」
「さあ…?」 その時だった。 ビリーの通信機が鳴った。 『こちら、第三空軍基地管制塔』 と、相手は言った。クリスの声である。 「俺だ。クリス、こっちはたった今、片がついた。今から帰還する」 ビリーは呑気に言った。 『至急帰還して下さい。こちらは、2体の円盤生物の襲撃を受けているんです!』 同じ頃、レナードは相変わらず苦戦を強いられていた。 強力なブラックガロンの舌は、彼の身体を容赦なく引きずった。 (畜生!俺一人ではどうにもならないのか…) その時だった。 彼の視界に、青い光が入った。 (あれは…、まさか…) すると、光が薄れ、一つの実体をなした。 「ルナっ!」 レナードはついそう叫んだ。 すると、ルナは大きく頷き、 「シュゥワッ!」 と、ウルトラギロチンを放った。 光の刃は、長く伸びたブラックガロンの舌を切断した。 開放されたレナードは倒れ、ブラックガロンは悶絶した。 それを尻目に、ルナはレナードに歩み寄った。 「大丈夫か?」 彼を抱き起こしながら、テレパシーでそう呼びかけた。 レナードはそれに頷いてから、 「しかし、どうしてお前が…?」 と、訊き返してきた。 すると、ルナは小さく首を横に振り、 「君が教えてくれたんだ…」 と、言った。 「俺が…?」 その時、ようやく立ち直ったブラックガロンが雄たけびを上げた。
「話は後だな…」 ルナは言った。 「そのようだ…」 拾ったアイ・スラッガーを頭にはめ直しながら、レナードは頷いた。 「俺は、こいつを片付ける。お前は、あっちをやれ」 戦闘機を追い回すサタンモアを見て、レナードは言った。 その頃、タケダたちは苦戦していた。
「畜生。この小鳥どもは一体何なんだ?」 既に一機が、リトルモアの餌食となっていた。 「クソッ!これじゃ、援護どころじゃないぜ…」 その時、彼の目にルナの姿が映った。 「青い…巨人…。また来てくれたか…」 タケダの脳裏に、さきのブラックガロン戦の記憶が蘇った。 巨人は、飛び立つとサタンモアに向かっていった。 そして、その途中でこちらを一瞥した。 それはあたかも、「こっちは自分に任せろ」と言っているようだった。 タケダは、それに小さく頷くと、 「よし。『親』の方は巨人に任せて、俺たちは五月蝿い小鳥どもを叩くぞ。良いな?」 と、部下たちに言った。 ルナは、空中でサタンモアに掴みかかった。 「ギャー!」 サタンモアは、激しく身を捩じらせてそれに抵抗した。 しかし、ルナは決して離さなかった。 すると、敵は非常手段に出た。 サタンモアは急降下して、地面すれすれの高度で飛び始めたのである。 「ウオッ…」 ルナは地面と接触し、とうとう振り落とされてしまった。 彼の巨体は、轟音とともに大地を転がった。 「ウウ…」 ルナがよろよろと立ち上がると、そこには高速で迫るサタンモアが居た。 「ギャー!」 サタンモアは、その鋭いクチバシで彼の胸を突いた。 「ウオ…」 胸を押さえて、ルナは膝をついた。 すると、それを見たサタンモアは、畳み掛けるように、ルナの身体や頭を激しく突いた。 一突きごとに、鋭い痛みが走った。 いつの間にか、カラータイマーの点滅が始まっていた。 一方、レナードはブラックガロンと格闘していた。 舌を失ったとは言え、相手は強敵だった。 火花状のスパーク光線が、容赦なく彼の肌を焼いた。 レナードはそれをかわすだけであった。 (なにか弱点は無いのか…) レナードは必死にそれを探した。 そして、一つの事に気づいた。 (前の戦闘では、目を攻撃されて悶絶していた。そして、今回は舌を…) レナードはハッとした。 (そうか。こいつの弱点は、外殻で覆われていない粘膜部分なのだ!だとすれば、こいつにとって最大の弱点は…) レナードの金色の目は、相手の口に釘付けとなった。 「デュワッ!」 レナードは、思い切り高くジャンプした。 そして、宙返りをして、相手の背後に着地した。 ブラックガロンもこちらを向く。 すると、レナードは、相手の振り向きざまに、その右目をエメリウム光線で狙った。 「ギャース!」 ブラックガロンは悶絶して、大きく口を開いた。 (今だ!) レナードは腕をL字型に組むと、 「デュワ!」 渾身の力を込めてワイドショットを放った。 緑色の帯状光線は、集束されてその口の中に命中した。 「ギャーーーーース!!!」 口の中で大爆発が起こり、ブラックガロンは、全身から火花を噴き出した。それは、花火を思わせる美しさだったという。 ブラックガロンは、暫く踊るように跳ね回ったが、やがて力尽きて倒れると、爆発四散した。 それを見ると、レナードも倒れた。そして、静かに消えていった。 一方、ルナは、相変わらず敵のクチバシに苦戦していた。 エネルギーも乏しかった。 ミサイルの撃墜とテレポートで、エネルギーの大半を消費していた。 (早く勝負をつけなければ…) しかし、焦燥と畳み掛けるような相手の攻撃は、ルナから冷静な思考を奪っていた。 (どうすれば…) その時だった。 数発のミサイルが、サタンモアを直撃した。 見ると、二機の空軍戦闘機がいた。しかし、それはタケダの部隊のものではなかった。 「ウルトラマン。援護するぜ!」 それはシュペーマンとクリスだった。エドガー大将に許可を貰って、出動したのである。 「ウルトラマン。頑張ってぇ~」 「クリス。お前こそ、足引っ張るなよ」 「あら、失礼ね。こう見えても、操縦は案外上手いのよ」 「ほう…」 「あ…。信じてないでしょ?」 「どうかな?」 「見てなさいよ。私の腕前」 そう言うと、クリスはミサイルでサタンモアの頭を狙った。 「ギャー!」 サタンモアは悲鳴を上げた。 「どうよ?」 「まだまだ…」 そう言うと、今度はシュペーマンが攻撃した。 ただし、今度は羽根の付け根を狙った。 「ギャー…」 途端にサタンモアは高度を失い、激しく土砂を巻き上げて落下した。 「どういう事?」 怪訝そうに、クリスは訊いた。 「鳥類にとって最大の泣き所は、羽根なんだよ」 得意げにシュペーマンは言った。 「ずる~い」 「作戦勝ちってやつさ…」 と、シュペーマンは笑い、 「ウルトラマン。トドメは任せたぜ」 と言った。 ルナは、それに大きく頷くと、苦しそうにもがいているサタンモアに、渾身のメタリウム光線を放った。
「ギャーーーーーー!!!!」 断末魔の叫びを残して、サタンモアは高々と火柱を上げて爆発した。 それを見たルナは、感慨深げに暫くそれを見つめた後、音もなくスーッと消えていった。 そこからは早かった。 『親』を失ったリトルモアたちは、目標を見失ったかのようにオロオロし始めたのだ。 「よし。今のうちに一気に叩くぞ!」 タケダは部下に指示を出した。 すると、戦闘機たちは、仲間の弔い合戦だとでも言うように、機銃で次々とリトルモアたちを落としていった。 そして、それから10分もしないうちに、全ての個体が撃ち落された。 タケダはそれを確認すると、 「よし。状況終了だ。全機、これより基地に帰還する」 と部下に告げ、戦闘機の群れは、夜の闇を飛び去って行った。 オリジナル小説 第四十九弾! ウルトラマンA THE ZERO 第四十九章 激突!
同じ頃、ソレイユシティー郊外の造成地では、レナードの予想通りに活動を再開したブラックガロンが、地底から姿を現していた。
あらかじめ、それを待ち構えていたレナードは、 「来たか…」 と呟くと、懐からレナード・アイを取り出した。 いつもどおり、レナードはそれをはめる動作に入ろうとした。 しかしその時、一瞬ではあったが躊躇した。 カレンの無垢な笑顔が脳裏をよぎったのだ。 しかし、レナードは大きく首を振ると、 「デュワ!」 と、叫んでレナード・アイをはめた。まるで、迷いを振り切るかのように…。 黒い光とともに、夕暮れの造成地に、黒い巨人が出現した。 「デュワ!」 レナードは、ブラックガロンの眼前に立ちはだかるようにして立った。 すると、 「ギャース!」 相手も、それに負けじと咆哮した。 そして、次の瞬間、二つの巨体は大地を揺るがして激しく衝突した。 その頃村では、一人取り残されたカレンが、空になった三人の小屋を順番に見て回っていた。 「みんな、いっちゃったのね…」 と、彼女は寂しげに微笑んだ。 そして、暮れ行く西の空を眺めた。 遠くの空を、カラス群れが横切って行くのが見えた。 「あなたたちが羨ましい…。ちゃんとあるんだから…、帰る場所が…」 少女の日に焼けた頬を、一筋の涙が伝った。 同刻、空軍基地。 「あなたの説も、たまには的を射るのね…」 長い廊下を並んで歩きながら、クリスがシュペーマンに言った。 ブラックガロン出現の一報を受けて、やって来たのだった。 「それ、どういう意味?」 「そのままよ…」 二人は、基地の作戦司令室に入った。 すでに、基地司令官やルッツ主任技師、それに多数の兵士たちが忙しく働いていた。 「遅くなりました、司令官」 二人は入り口で敬礼した。 すると、50がらみの彫りの深い、軍服姿の男が近づいてきて、 「私が司令官の、エドガー大将です。お待ちしておりました」 と、二人に敬礼した。 「それで、状況の方は?」 まずシュペーマンが訊いた。 「敵は、前回と同じ造成地に出現しました。目下のところ、黒い巨人が敵と格闘中です」 大将はそう説明した。 「黒い巨人が?」 「ええ。間違いありません」 「それで、例のCPKカーゴの出動は可能ですか?我々も戦いたいのですが…」 すると、急に大将の顔が暗くなった。 「どうかしたんですか?」 クリスが訊いた。 すると、大将に代わってルッツが、 「実は、問題が…」 と、答えた。 「問題?」 「はい。実は、先ほど、カーゴのシステム内に、未知のトラブルが発生したのです」 「未知のトラブルですって?」 「ええ。我々は、何者かによる破壊工作と見ています」 「破壊工作って…、一体誰が…?」 とクリス。 「まさか、ザンパ星人が…」 と、言ったのはシュペーマンだった。 すると、ルッツは首を振って、 「いえ。システムは、外部のネットワークと完全に切り離された状態でした。ですから、たとえ宇宙人とは言え、外からの侵入は考えにくいんです」 と言った。 「ちょっと待て。と、言う事は…」 「ええ。考えたくはありませんが…」 「内部に裏切り者がいるって事ォ?!」 「シッ!声がでかい…」 と、シュペーマンはクリスをいさめたが、彼自身もまた同じくらい動揺していた。 「復旧のメドは?」 「まだ、なんとも…」 「コスモバードは出られないんですか?」 「二機はご存知の通り出動中。残りの二機はカーゴに搭載されていますが、肝心のカーゴが完全に死んでいるので、システムが復旧しない限り出動は出来ません」 「畜生!」 シュペーマンは机を叩いた。 「ウルトラマンは死んで、黒い巨人が必死で戦ってるってのに、俺らは見てるだけかよッ!」 その時、部屋のドアが開き、声が響いた。 「諦めるのは、まだ早いぜ!」 司令室の全員の視線が、そちらに注がれた。そこには、見覚えのある空軍将校が立っていた。 「奴には借りがあります。私に…、このタケダ大尉にもう一度チャンスを下さい!」 ちょうどそれと同じ頃、宇宙では、ようやく到着したビリーとアルバートが、謎の物体と対峙していた。 「何だよ…、あれは…?」 それは、紡錘形の金属製の物体だった。それが人工物であることは、誰の目にも明らかだった。 「ロケット…なのか?」 「分析します」 アルバートがキーボードを叩いた。ディスプレイ上に、さまざまなデータが表示される。 「あれは、無人です。生命反応はありません。ただ…」 「ただ?」 「あれの内部、特に先端部分に爆発物と思われる反応が…」 「何だと…?って事は…」 「ええ。あれは、巨大なミサイルです!」 「何てことだ!」 ビリーは舌打ちした。 「威力はどの程度だ?」 「ちょっと待って下さい」 アルバートは、忙しく指を動かした。 まもなく、ディスプレイに結果が表示されたが、それは彼を青ざめさせた。 「副隊長…、落ち着いて聞いて下さい。あれは…」 「?」 「あれは、惑星一つを跡形もなく吹き飛ばすほどの、恐ろしい破壊兵器です!」 「何だって?!」 レナードとブラックガロンは、文字通り激闘を繰り広げた。 レナードはアイ・スラッガーを投げつけた。 しかし、ブラックガロンは右腕で軽く跳ね返す。 もう一発投げつける。 今度は左腕で。 もう一発。 今度は頭突きで。 さらにもう一発。 これも右腕で…。 アイ・スラッガーを諦めたレナードは、腕をL字型に組んだ。
ワイドショットである。 「デュワ!!」 緑色の太い光線が、ブラックガロンに炸裂する。 敵は真っ白な弾幕に覆われた。 しかし、それが切れると、再び健在な姿を現した。 これにはさすがのレナードも少し怯んだ。
すると、今度はブラックガロンが攻勢に転じた。 「グワー!!」 ブラックガロンは、両腕の穴から火花状のスパーク光線を放った。 「ヘアッ…」 レナードは、高くジャンプしてそれをかわすと同時に、相手の背後に回った。その時だった。 「ウワッ…」 レナードの首に何かが巻きついた。 それは、長く伸びたブラックガロンの舌だった。 (こいつ…、俺の行動を読んでいたのか?) 強力な舌は、容赦なく彼の首を締め上げた。 「ウオォ…」 レナードは苦しそうに低く唸る。 チョップやパンチで叩いて、何とか緩めようとするが、一向にその気配は無かった。 そこで、レナードは頭上のアイ・スラッガーに右手を伸ばした。 アイ・スラッガーは投げるだけではない。ナイフとしても使えるのである。 しかし、彼がそれを手に取った瞬間だった。 「ウオッ…」 何かが彼の右手を直撃した。 アイ・スラッガーが地面に落ちる。 見ると、彼の目にはあるものが映った。 それは、全長60mはあろうかという巨大怪鳥だった。 「何だよ、あいつ…」 司令室のモニターでそれを見ていたシュペーマンは、言った。 「おかしい…。レーダーには何も映らなかったのに…」 兵士の一人が言った。 「どうやら、例の工作員は、レーダーシステムにも細工をしたらしいな…」 と、シュペーマンは呟いた。 「あれも円盤生物なのか?」 と、エドガー大将は呟いた。 その怪鳥――それは、後にサタンモアと呼称される円盤生物である。
「こんな時に何も出来ないなんて!」
シュペーマンは地団太を踏んだ。 「この上は、タケダ大尉に託すしかないな…」 と、エドガー大将はモニターを見つめながら、独り言のように言った。 同じ頃、宇宙。 「何て事だ!」 ビリーは焦っていた。 「ミサイルもレーザーもまるで効果なしじゃないか!」 と、ビリーは怒鳴った。 「アルバート。何か、他に有効な攻撃手段は?」 「すみません…。まるで、手の打ちようが…」 「諦めるな!いいか?俺たちの肩には、多くの命が懸かってるんだ。ここで俺らが諦めてどうする?」 「しかし…」 と、アルバートが弱音を吐いた時だった。 彼の目に、眩い青い光が見えた。 光源は青い発光体だった。 「あれは…、もしや…」 発光体は、二機のコスモバードを追い越して恒星間弾道弾に接近していった。そして、やがて光が薄れていくと、二人はその姿をはっきりと見た。 「ま、間違いない…」 「彼はやはり不死身だったか…」 それは、まさしく青い巨人――ウルトラマンルナであった。 April 24 オリジナル小説 第四十八弾!! ウルトラマンA THE ZERO 第四十八章 奇襲!
翌日、ようやく歩けるようになったルナは、クレアを誘って散歩に出た。
彼女はまだ傷が完全に癒えていなかったので、ルナが肩を貸して歩く事になった。 「そう言えば、久しぶりだね…、二人っきりで歩くって…」 クレアは言った。 すると、ルナも頷いて、 「そうだね…。スペーグス戦の直前以来かな?」 と、言った。 「そうね…」 「そういえば、覚えてる?初めて会った日の夜」 「ええ、もちろん。あの日は星の綺麗な夜だったわ…」 「うん」 「あの時は、宇宙って美しいものだと思ってたのにね…」 クレアは少し寂しげに言った。 すると、ルナは首を振って、 「いいや。今だってそうさ…」 と言った。 「確かに、宇宙にはたくさんの侵略者が居る。だけど、それだけじゃない。たとえば君みたいに、平和を愛して、他者を慈しむ――そんな美しい心を持った生物だっていっぱいいるんだよ。そして、それを守るのが、僕たちウルトラマンなんだ…」 「それが私たちの使命なのね…」 「そうさ…」 「いつか、また平和な日々が帰ってくるのよね?」 「もちろんさ。僕らで取り戻すんだ」 「ええ」 すると、二人はそこで一旦休む事にした。 ルナは、適当な切り株を見つけてクレアを座らせると、自分は地面にハンカチを敷いてその上に腰をおろした。 「ゴメンね。私重かったでしょう?」 出掛けにカレンから渡された水筒を開けながら、クレアは言った。 「大した事ないよ…」 「でも、結構息が上がってるわよ」 水筒の水をコップに分けながら、クレアは笑った。 「このところ運動不足だったから…」 そう言って、ルナも笑った。 彼は水の入ったコップを受け取りながら、 「いい日だなぁ…」 と呟いた。 「ええ…」 クレアも青い空を見上げながら言った。 (こんなにも穏やかな気持ちで空を見上げたのは、一体何年ぶりかしら?) その時だった。
ふと後ろに気配を感じて、ルナは振り返った。 すると、そこにはレナードが立っていた。 「レナード…?」 ルナは彼の様子にただならぬものを感じた。 「奴が動くぞ…」 レナードはテレパシーで言った。 「奴って…まさか…」 ルナもテレパシーでそれに応じる。 レナードは小さく頷き、 「ああ、ブラックガロンだ。先ほど、わずかだが奴の意思を感じた。たぶん今夜だ」 と、言った。 「そんな…。早すぎる…」 ルナは焦った。 クレアの決心がついたとは言え、昨日の今日ではいくらなんでも急すぎる。それに、クレアの傷だって癒えていないのだ。 「ルナ。この会話は彼女には聞こえていない」 彼の動揺を見越したように、レナードは言った。 「どういう意味だ?」 「もし、今夜戦わないのならば、彼女にはこの事を黙っていればいい」 「……」 「知らなければ、自分を責める事も無いだろう…」 「しかし、君一人では…」 「ルナ…」 レナードはキッと彼を見据えた。 「彼女の傷はまだ回復していないんだろう?今の状態で戦って負ければ、今度こそ確実に死ぬぞ」 「……」 「なぁに…。お前のなど無くても、俺一人で十分だ」 「しかし、もし新手が来たら…?」 「その時は、その時だ。最善を尽くすまでさ…」 「死ぬ気か?」 「……」 レナードは視線をそらした。 「答えろ、レナード。馬鹿な真似はよすんだ」 ルナは必死で説得した。 しかし、レナードはこちらに背を向け、 「言ったはずだぞ、ルナ。俺は俺のために戦う。他の誰のためでもなくな。だから、誰の指図も受けん」 と、言い残してどこかに消えた。 「レナード!」
ルナはつい声に出して叫んでしまった。 それを聞いたクレアは驚いて、 「どうしたの?」 と訊いて来た。どうやら、声だけでなく姿も彼女には見えなかったらしい。 「何でもない…」 目を伏せて、ルナは言った。 「でも、顔色悪いよ。何かあったの?」 「何でもないんだ。本当に…何でもないんだよ」 自分自身に言い聞かせるように、ルナは繰り返した。 クレアは暫く怪訝そうに彼を見つめていたが、 「もう、そろそろ帰ろっか?」 と言った。 ルナは、黙ってそれに頷いた。 同じ頃、CPKには戦慄が走っていた。 「宇宙監視衛星が、こちらに接近する謎の飛行物体の影を捉えました」 という報告が空軍から入ったのだ。 電話に出たビリーは、 「それは一体何ですか?まさか、また円盤生物じゃ…」 と訊いた。 「それはまだ分かりません。ただ、天然の隕石でない事は確かです」 「どこから飛んできたんですか?」 「方角からして、マゼラン星雲ではないかと…」 「ブラックスターではないんですか?」 「はい」 「現状のコースで進み続けた場合、物体が月に接触する可能性は?」 「皆無ではありませんが、かなり低いと思われます」 と、相手は言った。 ビリーは意外だったのと同時に、無意識にホッとしていた。 「ただ、このままの行けば、地球に接触する可能性が高いですね…」 「何ですって?」 ビリーの顔が青ざめた。 「それは間違いありませんか?」 「ええ。90%以上の確率で」 「もし、そうなった場合の月への影響は?」 「そうですね…。物体の質量にもよりますが、大きさとスピードから推定して、たとえ直撃してもただちにこちらに問題が起こるという事はないと思われます」 「接触予想時刻は?」 「36時間後です」 「そうですか…。では、何か分かったらまた…」 そう言ってビリーは受話器を置いた。 「何があったんです?」 シュペーマンが隊員たちを代表して訊いた。 ビリーは、電話の内容をかいつまんで彼らに説明した。 すると、全員が頷いて、 「なら、問題ないじゃないですか…」 と、ホッとした顔になった。 しかし、ビリーだけは硬い表情で、 「俺には、そうは思えない…」 と言った。 全員の表情が曇った。 「なぜです?」 シュペーマンが訊いた。 「だって、そうだろ?これだけ立て続けに敵の襲撃を受けている中で、正体不明の物体が飛来したんだ。偶然とは思えん」 と、ビリーは説明した。 「しかし、物体はブラックスターやザンパ星のものではないんでしょう?」 「だが、もし、侵略者がザンパ星人やブラックスターだけでないとしたら…」 「考えすぎですよ」 「俺はそうは思わない」 「では、どうしろと?」 「一応調査をしたいと思ってる」 「コスモバードで、ですか?」 「そうだ。もう整備は終わっているはずだ」 「俺は反対ですね」 シュペーマンはきっぱり言った。 「なぜだ?」 ビリーは彼をキッと見据えた。 「もし、調査に行っている間に、例の円盤生物が活動を再開したらどうするんです?」 「……」 「或いはダミーということもありえます」 「ダミー?」 「ええ。我々の眼を宇宙にひきつけておき、その隙に月を奇襲する気かも知れません」 「……」 ビリーは黙っていた。 もっともな話である。確かにシュペーマンの意見も捨て難い。円盤生物という差し迫った危機が目の前にある中で、害があるかどうかも分からないものの調査のために人員を割く事は、指揮官として賢明とはいえないかも知れない。 しかし、ビリーは自分の意見を曲げる気はなかった。 あの物体にはきっと何かがある。それを突き止めなければ…。 「シュペーマン。確かに、お前の意見ももっともだ」 ビリーは言った。 「しかしな、たとえ1%でも疑いがあれば、それを調べるのも俺たちの使命じゃないのか?」 「そうですが…」 「では、こうしよう」 「?」 「宇宙には俺とアルバートで行く。お前とクリスはここに残って、不測の事態に備えろ」 と、ビリーは提案した。 「これでどうだ?」 ビリーはシュペーマンを見た。 シュペーマンは暫く考えていたが、 「分かりました。そうします」 と、ようやく頷いた。 それを見たビリーは、姿勢を正して、 「よし。では、CPK出動!」 と、リュー隊長譲りの号令をかけた。 「了解!」 隊員たちもそう言って敬礼した。 (隊長、見ていますか?俺も、少しはあなたに近づけましたか?) ビリーは一瞬、そんな感傷に浸った。涙があふれそうなのを必死でこらえつつ…。 小屋に戻ったルナは、窓の外の西の空を眺めていた。 すでに、空は真っ赤な夕日に染め上げられている。 (これから起こる事がわかっていながら、僕には何も出来ないのか…) その時だった。 夕日をバックに、二つの影が空高く飛び立っていった。 それはとても小さな点にしか見えなかったが、ルナにははっきりと見えた。 (コスモバードだ!) 二つの影は、そのまま空の彼方に吸い込まれていった。 (ビリーさんたちだろうか?) ルナは困惑した。 (なぜ、宇宙に行くんだ?敵は月に居るのに…) その時だった。 彼の脳裏に、またあの声が響いた。 『ルナよ…』 「ゾフィー副隊長!」 『ルナよ。敵はザンパ星人だけではないぞ』 と声は言った。 「どういう意味ですか?」 『あれはマゼラン星人が放った恒星間弾道弾だ』 「恒星間弾道弾?惑星一つを軽く吹き飛ばすという、あの…?」 『そうだ。それが地球を狙っている』 「なぜです?」 『マゼラン星はザンパ星と対立している。そのザンパ星が太陽系を前線基地にする事は、マゼラン星にとってはこの上ない脅威なのだ。しかし、マゼラン星には、ザンパ星人の侵略を止めるだけの力は無い。そこで、彼らはある事を思いついたのだ』 「ある事?」 『侵略を防げないのならば、太陽系そのものを滅ぼしてしまおうと…』 ルナの顔が引きつった。 「そんな無茶苦茶な…」 『しかし、事実だ』 「なぜ、地球なんです?」 『月は地球の衛星だ。月は地球の引力によって繋ぎ止められていると同時に、地球の自転を支えている。要するに、この二つの天体は運命を共にしているのだ。どちらかが滅べば、もう片方も同じ運命を辿る』 「しかし、それでは月を滅ぼす事は出来ても、太陽系そのものを破壊する事は出来ないのでは?」 『ルナ。太陽系は、惑星間の微妙な引力バランスで成り立っているのだ』 「はい」 『もし、その一つでも欠ければ、バランスは崩れ、いずれは全てが滅ぶ事となる』 「何と恐ろしい…」 『しかし、その危機は間近に迫っている。猶予は、あと36時間足らずなのだ…』 「!」 『しかし、撃墜した場合の周辺への影響を考えると、少なくともあと数時間以内には撃墜しなければならない』 「ですが、恒星間弾道弾は、この星の武器では…」 『まず、撃墜は不可能だろうな…』 ゾフィーはきっぱり言った。 「何てことだ…」 ルナは頭を抱えた。 『しかし、我々ならば可能だ』 ゾフィーは言った。 「レナードは、円盤生物との戦いで手一杯です。今はとても…」 『ルナ。お前が居るではないか…』 「無理です」 『なぜ?』 「今の彼女なら、精神的には変身に耐えられるでしょう。しかし、肉体的には…」 『ルナ。お前は大事な事を忘れている…』 「?」 『私はお前に“信じる心”の強さを教えた。そして、お前自身も彼女にそれを教えた』 「はい…」 『だが、お前自身はどうだ?』 「?!」 『彼女はお前を信じている。しかし、お前はどうだ?』 と、ゾフィーは問うた。 「僕だって、もちろん彼女を信じています。だからこそ…」 『ならば、なぜ躊躇する?』 「?」 『お前が彼女を真に信ずるのならば、彼女の強さを信じろ!それが…、お前の乗り越えるべき最後の障壁だ。迷わず行け!そして、勝つのだ!愛すべき者たちを救うために…』 その言葉を残して、ゾフィーの声は遠ざかっていった。 「信じる…」
ルナは右中指に光るウルトラリングを見つめた。 そして、何かに駆り立てられるように彼は小屋を飛び出すと、クレアの小屋の戸を叩いた。 戸が開けられ、彼女が顔を出すなり、ルナは言った。 「クレア。僕の事を信じてくれ。僕も、君の強さを信じる!」 クレアはいきなりの事で、さすがに戸惑いを隠せない様子だったが、すぐに状況を理解したらしく、 「分かったわ」 と言い、 「私もあなたを信じるわ」 と、微笑した。 「ありがとう…」 するとその瞬間、二人のウルトラリングが眩い光を放った。 二人はそのリングを合わせた。 そして、一つになった…。 オリジナル小説 第四十七弾! ウルトラマンA THE ZERO 第四十七章 再起への道
ルナは、その話をクレアに聞かせた。
クレアは、最後までじっとそれに耳を傾けていた。 「ウルトラマンも、怖いって思う事があるのね…」 話が終わると、彼女は言った。 「そうさ。ウルトラマンだって、神様じゃない…。万能じゃないのさ。怖いことや、迷うことだってあるよ。でもね、それを超えていく事が“真の勇気”なんじゃないかな…。ゾフィー副隊長は、たぶんそれが言いたかったんだと思う…」 ルナは言った。 「私にも出来るかしら?」 クレアは訊いた。 「もちろんさ。きっと乗り越えられるよ、君も。だって…」 「だって?」 「だって、君は強い人だから。僕なんかよりね…」 と、ルナは微笑した。 もうすっかり日が暮れてしまった。 丘の上で、レナードとサンドウィッチをつまんでいたカレンは、 「暗くなっちゃったね…」 と、言った。 「そうだな…」 「帰ろっか?」 カレンが立ち上がった。 「そうだな」 レナードもそれに従った。 すると、何を思ったかカレンは、突然彼の手を握ってきた。 「ん?」 彼が怪訝そうにしていると、カレンは、 「女の子と手を握るのは嫌?」 と訊いてきた。 「別に…」 ちょっと戸惑いながらも、努めて冷静にレナードは言った。 「良かった。じゃ、行きましょ」 と、カレンは微笑み、歩き出した。 「なあ…」
歩きながら、レナードは言った。 「え?」 「前から訊きたかったんだが、俺の事をどう思っているんだ?」 「あたしが?」 「そうだ」 「そうねぇ…」 心なし、レナードは少し緊張した。 「不思議な人…、かな?」 「不思議な人?」 少し拍子抜けした様子で、レナードはオウム返しに言った。 「そ。だってそうでしょ?いつもフッと居なくなったり、ヒョコッと帰ってきたり…」 「怖くはないのか?」 「怖い?」 「どこの誰とも分からない俺を、怖いと思った事はないのか?」 「全然」 と、カレンは首を振った。 「だって、あなたは悪い人には見えないもの…」 「そんな見かけだけで人を判断できるのか?」 「いいえ。見かけじゃないわ。感じるの」 「感じる?」 「あなたの心を」 「俺の心…?」 「うん」 「俺の心とやらに何を感じるんだ?」 「冷たいもの…」 「……」 「何か、とても暗くて、冷たくて、重たくて…」 「……」 「でもね…」 「?」 「その中に埋もれた、別のものも感じるの」 「別のもの?」 「うん。とても暖かくて、軟らかくて…、例えるなら…」 「?」 「光…。それも、太陽みたいな…」 「……」 「私が…強い…?」 怪訝そうな顔をして、クレアは言った。 すると、ルナは頷いて、 「だって、そうじゃない?見ず知らずだった僕なんかを信じて、自分の地位を投げ出してまでCPKに入ったんだし、それにさ…」 「それに?」 「それに、あの時僕を信じてくれた…」 「あの時?」 「君が、死にかけた時だよ」 「……」 「僕には分かったよ…。あの時、君は死に際だったからじゃなく、心の底から本当に僕の事を信じてくれてるってね…」 クレアはあの時のことを思い出してみた。 あの時は意識が朦朧としていて、状況はあまりよく覚えていないが、気持ちだけは鮮明に覚えていた。 『待ってるわ…。あなたがあの怪物を倒すまで…』
この言葉を発した瞬間、確かに私は信じていたわ。 あなたはきっと戻ってきてくれる…。死ぬ前に、もう一度私を抱きしめてくれるって…。 その瞬間、クレアの頬を一筋の涙が伝った。
ルナは、彼女に白いハンカチーフを手渡した。 彼女がそれを黙って受け取ると、彼は話を続けた。 「ゾフィー副隊長は言っていた。『信じる心が勇気に変わる』ってね。あの時は、僕自身その意味がよく分からなかった。でも、今なら分かる…」 「……」 クレアは、握り締めたハンカチを見つめたまま、黙ってそれを聞いている。 「それを教えてくれたのは、クレア――君なんだよ…」 「……」 「だから、信じてくれ。僕の事を、もう一度だけ信じて欲しいんだ。そうすれば、もう何も怖くない…。君なら出来るよ、きっと…。いや、絶対に!」 ルナは、最後の部分に力を込めた。そして、傍らのクレアをじっと見つめた。 すると、彼女もこちらを向き、何も言わずに彼に抱きついた。 不思議とルナは驚かなかった。 「私…信じる、あなたの事…。だって…」 「……」 「あなたの事を愛してるから…」 そんな彼女を、ルナは優しくその胸に抱きとめた。 「ありがとう…クレア」 その瞬間、二人のウルトラリングが、かすかに光った。 同じ頃、CPKが詰めている病院では、隊員たちによる会議が行われていた。 「近いうちに、ここを出ようと思う…」 ビリーは言った。 「どういう意味ですか?それは…」 とシュペーマン。 「ああ…。今、俺たちはこうしてこの病院を間借している。しかし、いつまでもこうしているわけにもいかないだろう?もちろん病院にだって迷惑が掛かるし、それに、もしシルバーブルーメのように、俺たちを標的にした敵が現れた場合、多くの犠牲者を出す事になる…」 「……」 「それで、どこに…?」 と、アルバート。 「うん。まだ未定だが、とりあえずは軍の基地を頼る事になるだろうな…」 と、ビリーは答えた。 「そうですか…」 「アルバート。何か問題でもあるのか?」 「あ…、いえ。そんな事は…」 「よし。では、今日は解散だ。明日も円盤生物が現れない事を願おう。お休み」 そう言って、ビリーは壇上を下りた。 アルバートも席を立った。 すると、クリスが寄ってきて、 「“彼女”のことですか?」 と、耳打ちした。 すると、彼は驚いた様子で、 「君、知ってるの?」 と訊いた。 クリスはクスッと笑って、 「ゴメン。廊下で見ちゃった…」 とウィンクした。 「ったく。油断も隙もないんだから…」 そう言い残して、アルバートは会議室を後にした。 その後で、クリスは後ろから肩を叩かれた。 「おい。彼女って何だよ?」 と、シュペーマンは訊いた。 「あら…。聞こえてた?」 「知ってるか?低い音ほどよく聞こえるんだぜ。特にヒソヒソ話はな…」 「そうやって盗み聞きするんだ…」 「馬鹿。人聞きの悪い事言うな。それより、誰なんだ?彼女って…」 「う~ん…。でもぉ、あたしぃ、結構口は堅い方なんだけどなぁ…」 (始まったよ…) シュペーマンは内心苦笑した。 「分かったよ。今度何かおごってやるよ」 「本当?」 「ああ」 「じゃあ、教えたげる」 (ゲンキンな奴め…) 「レベッカっていう女医さんよ」 「女医のレベッカ?どこかで聞いた事が…」 シュペーマンは宙に目を泳がせた。 「ほら…。べムスター戦で、あなたたちが大怪我した時にオペを担当したドクターよ」 「ああ!」 そうだった。確かあの時は大手術で、メディカルセンターの医者だけでは足りず、この病院からも外科医を呼んだのだ。 「どうも、その時の縁で、付き合い始めたみたいよ…」 と、クリスは言った。 「ったく。隅に置けねぇな、あんにゃろ」 シュペーマンは舌打ちした。 「あんなののどこがいいってんだよ?」 「キザで口の悪い生物学者よりも、気のいい物理学者を選んだのね」 納得したように、クリスは言った。 「あ…。それ、どういう意味だよ?」 シュペーマンは、心外だという目つきで、クリスを見た。 すると、クリスはそれを遮るように、 「ところでさ…」 といい、 「ルナ君とクレアちゃんはどうしたのかしら?」 と、訊いてきた。 (チッ!) いつもの手だとシュペーマンは思った。が、こうなったら二度と元の話題には戻らせてくれない事を経験上知っていたので、あえて逆らう事はしなかった。 「そうだな…。あれから何日になる?」 「今日で丸三日…」 「そうか…。可哀想にな…」 すると、クリスは驚いた目つきでシュペーマンを見た。 「まさか、もう死んだと思ってるんじゃないでしょうね?」 しかし、シュペーマンは冷静に、 「全ての救護所・病院に問い合わせたが、それらしいけが人は一人も運ばれていない」 「でも、モルグ(死体安置所)にもそれらしい遺体は無いという報告よ」 すると、シュペーマンは小さく首を振って、 「あのな、モルグに運ばれた遺体は、ごく一部なんだ。まだ発見されていない死者は大勢いるんだよ」 と、言った。 「ずいぶん簡単に諦めるのね」 「俺は正論を述べただけだ。お前も大人になれよ…」 そう言い残して、シュペーマンもその部屋を出て行った。 最後に残ったクリスは、 「確かにそうかも知れない…。でも、信じたいじゃない…。それとも、大人になるって『もう奇跡なんか信じちゃいけない』って事なの?だとしたら…」 と、言いかけたが、小さく首を振ると、そのまま部屋を出た。 まもなく、蛍光灯の白い明かりも消えた。 April 17 オリジナル小説 第四十六弾!! ウルトラマンA THE ZERO 第四十六章 遠い記憶
これは、まだルナが訓練生だった頃の話である。
ある日、ルナをはじめとした二十人ほどの訓練生の一団が、宇宙空間での演習を実施した。 確か、アンドロメダの辺りだった。 これは、その帰途の出来事であった。 「あッ!あれは何だ?!」
訓練生の一人が声を上げた。とは言え、当然この場合の“声”とは、テレパシーの事をさす。 全員が同じ方を見る。 すると、そこには巨大な宇宙船と、平均身長50mほどの屈強なエイリアンが数十名立ちはだかっていた。 「お前たちは何者だ?」 一人が叫んだ。 「俺たちはドロボン星の宇宙海賊だ!」 ボスらしい一人がそう答えた。そいつだけは60m近くはあろうかという、ひときわ巨大で屈強な奴だった。右手に棍棒、左手にはカンテラのようなものを提げている。 「ドロボン星の宇宙海賊?聞いた事があるぞ。星々を渡り歩き、さんざん乱暴狼藉を働いた挙句に、めぼしい資源を根こそぎ奪っていくという…」 訓練生のリーダーが言った。実は、彼こそが、後に『帰ってきたウルトラマン』と呼ばれる事になる、ウルトラマンジャックであった。訓練所では、ルナよりも一期先輩である。 「その通りだ!」 「だとしたら、襲う相手を間違えたようだな…」 ジャックは言った。 すると、ボスは笑って、 「笑わせるなッ!俺たちの狙いは、貴様ら宇宙警備隊員のエネルギーの源、そのカラータイマーよ!」 と、ジャックの胸元を指さした。 「何だと?」 ジャックに緊張が走った。 すると、それを見透かしたかのように、ボスはニヤリと笑い、 「ようやく、事の重大さが分かったようだな?『生徒会長さん』よ…」 と、不気味に光る目で、彼を見た。 「訓練生だと思って甘く見ない方がいいぞ…」 極力、平静を装ってジャックは言い返した。そして、他の訓練生たちもファイティングポーズをとって身構えた。しかし、それはあまり功を奏さなかったらしく、ボスは右手に握った棍棒を振って、 「野郎どもッ!物分りの悪ぃガキどもに、宇宙の厳しさを教えてやんな!!」 と叫んだ。すると、 「おおおッ!」 雄たけびと共に、数十名の手下どもが一斉にこちらに向かってきた。 それは、今思い出しても緊張が蘇ってくるほどの迫力であった。 「みんなッ!恐れるな。数では劣っていても、勝てない相手ではない!油断せずに行け!」 そのジャックの指示で、幾分勇気を回復したルナたち下級の訓練生は、津波のごとく押し寄せるドロボンの群れに対して、一斉に十字型に腕を組んで構えた。そして、その右手からは、金色に輝く光線が放たれた。 スペシウム光線である。 これは、訓練生たちが一番最初に教わるもっとも基本的な、しかし強力な技だった。 光線は、次々にドロボンの身体を刺し貫いていった。 しかし、それでも完全にドロボンたちの動きを止めるには至らず、第一次攻撃を突破してきたドロボンたちとの格闘戦になった。 格闘戦は一進一退だった。 個々の戦力では劣っても、数の上で勝るドロボンたちとの戦いは、実戦経験の浅い訓練生たちにかなりの苦戦を強いた。 途中、力尽きて倒れる者もあった。 その中にあって、ルナは健闘した。 しかし、もっとも活躍したのは言うまでもなくジャックだった。 彼は、訓練生たちの最上級生として、リーダーとして、素晴らしい戦いをした。 スペシウム光線、八つ裂き光輪…。 一体、また一体とドロボンたちを倒していった。 正確な数はルナ自身にも分からないが、少なくとも、一人で十体は倒しただろうとは思う。 そして、程なくして手下のドロボンたちは一体残らず全滅した。
しかし、味方のダメージも相当だった。 最初二十名ほどいた訓練生も、ジャックとルナを含んだ5人だけになっていた。 「だいぶやられたな…。助けを呼ばないと…」 ジャックがそう呟いた時だった。 「うわッ…」 「おおッ…」 「ギャ…」 三人の訓練生が次々と悲鳴を上げて倒れた。 ルナとジャックが慌てて見ると、そこには一際巨大なボスドロボンと、そいつに倒されて気を失った訓練生たちが居た。 「やっぱし、ザコどもにゃ任しちゃおけねぇな」 倒された自分の子分たちを一瞥しながら、ボスは言った。 「貴様…」 ジャックは歯噛みした。 「……」 ルナは、声が出なかった。出せなかった。 ただただ呆然としているばかりであった。 そんな彼をよそに、ジャックは彼の前に出て、 「ルナ。お前は帰って、援軍を呼べ。ここは俺が何とかする」 と言った。 「しかし…」 「いいんだ。ここは任せて早く行け!」 ジャックは言った。 ルナは躊躇しながらも、その場を離れる事にした。 「ようやく一対一というわけだ…」 ボスは言った。 「そのようだな…」 「言っとくが、俺はザコの手下どもとは違うぜ…」 「それでこそ、相手に不足なしというものだ…」 そう言うと、二人はある遊星上に降り立って対峙した。 そして、まず先手を取ったのはジャックだった。 ジャックはスペシウム光線を発射した。 しかし、ボスはそれをかわす事も防ぐ事もせずにダイレクトに胸で受け止めると、 「ははは…。貴様の力はこの程度か?こんなヘナチョコ光線では俺は倒せんぞ!」 と、高笑いした。 「畜生!」 ジャックは歯噛みした。そして、今度は腕をL字型に組んだ。 シネラマショットである。 より強力なこの光線が、ボス目掛けて放たれた。 しかし、ボスは慌てる様子もなく、左手のカンテラを差し出した。 「そらよッ」 すると、光線はそのカンテラに完全に吸収されてしまった。 これには、さすがのジャックもひるんだ。 すると、今度はボスが、 「光線ってのはな…」 と、不敵な笑みを浮かべ、 「こうやって撃つんだよ!」 と言うや、棍棒を振りかざし、光線を発射した。 「うお…」 それをまともに浴びたジャックは、数百メートルも後方まで弾き飛ばされ、岩だらけの地面に叩きつけられた。 と、その時、胸のカラータイマーが赤く変色し、点滅を始めた。 すると、それを見たボスは、狡猾そうにニヤリと笑い、 「どうやら、余興は終わりのようだな…」 と、倒れたジャックに歩み寄っていった。 「……」 「さて…、ではトドメといくかな…」 ボスは棍棒を大きく振りかぶった。 これが振り下ろされれば、一巻の終わりである。 ジャックは覚悟した。 (ルナ…。頼んだぞ…) その頃、ルナは同じ遊星上の岩陰にいた。
彼はジャックを見捨てる事が出来ず、戻っていたのだ。 (どうしよう…) ルナは迷った。 (先輩を助けなければ…) しかし、今出て行けば、仲間やジャックの二の舞である。だが、このままでは…。 ルナは岩陰で一人頭を抱え、悩んだ。 そんな暇は無い―そんな事は分かっていた。が、彼には助けに飛び出す勇気も、ジャックを見捨てる度胸も無かった。 最悪の場面だけが、頭をよぎる。 ルナは、この時初めて本当の恐怖を感じた。 (僕は、駄目な奴だ…。ウルトラマン失格だ…) その時だった。 彼の頭の中に、声が聞こえた。 『ルナ』 ゾフィーだった。 「副隊長!」 ルナはテレパシーでそう言った。 『ルナよ…。何をしているのだ?仲間のピンチだぞ』 ゾフィーは言った。 「副隊長…。僕には無理です。あんな奴には勝てない!!」 『馬鹿を言うな!』 「?」 『いいか?今、彼らを救ってやれるのは、お前しか居ないのだぞ』 「……」 『それに…』 「それに?」 『それに、お前はジャックが帰れと言ったのを聞かずに、そこに戻ってきた。それは、お前自身が戦うと言った事と同じなのだぞ』 「ですが…」 『ルナ』 「……」 『私はお前を信じている』 「信じる?」 『そうだ。いいか?勝敗を決めるのは、何も力量の差だけではない』 「?」 『信じる心。そして、何かを守りたいという気持ち。それが勇気に代わり、恐怖や迷いを打ち消すのだ』 「……」 『行くのだ、ルナ。ドロボンを倒せ!お前は…、お前はウルトラマンなのだ!』 そういい残してゾフィーは彼の脳裏から消えた。 (信じる心…、守りたいという気持ち…、戦う勇気!) そして、いよいよ棍棒がジャックに振り下ろされようとした瞬間だった。 不意に、ボスの動きが止まった。 見ると、その背中からは白い煙が上がっていた。 ボスは、ゆっくりと振り返った。 そこには、腕を十字型に組んだルナが、毅然とした様子で立っていた。 「ルナッ!」 ジャックはつい声を上げてしまった。 「ほう…。まだやられたりない奴が残っていたか…」 ボスは言った。 「面白ぇ!相手をしてやるぜ!」 しかし、一方のルナは冷静だった。 ルナは、落ち着いた様子で、ゆっくりと身構えた。 (何かが違う!) ジャックはそう感じた。 それは、今まで彼の見た事のない『ウルトラマンルナ』であった。その姿は心なし神々しく見えた。 ジャックは、彼に期待する事にした。 「ルナッ!そいつには並みの光線技は効かんぞ。気をつけろ!」 ジャックは叫んだ。 ルナは、それに大きく頷くと、ボスをにらみつけた。 「ほう…。俺様を睨むとは、いい度胸だ…」 と、ボスも一層強い目でにらみ返した。 暫く、そんな睨み合いが続いた。 そして、 「食らえ!」 と、今度はボスが先手を取った。 棍棒からの光線で、ルナを狙った。 しかし、ルナは軽い身のこなしでそれを難なくかわすと、ビームランプからパンチレーザーを発射して、相手の顔を撃った。 「うぎゃあ…」 ボスは、顔に手を当てて悶絶した。 「畜生!」 すると、今度は口から黒いガスを噴射した。 「破壊ガスだ!気をつけろ!」 ジャックは慌てて叫んだ。 しかし、当のルナは相変わらず落ち着いて、両手を合わせて前に突き出すと、そのままガスを全て吸収してしまった。 これには、ジャックも驚いた。 (あいつ…、いつの間に…) 一方のボスは、今のでいよいよ頭に血が上ったらしく、今度は両目からビームを発射した。 ルナは、サークルバリヤーでそれを防ぐと同時に、跳ね返した光線を相手のヘソに命中させた。 「うおおぉ…」 ボスは激しく悶えた。 「今だ!ルナ、トドメを刺せ!」 ジャックは叫んだ。 ルナはそれに黙って頷き、両手を大きく広げると、その手先からビームを発射した。 ダブルビームである。 二本の光の刃が、ボスの持つ棍棒とカンテラを根こそぎ切断した。 もはや、刀折れて矢尽きたボスは、逃げ腰になった。 しかし、それでもルナは攻撃の手を休める事はしなかった。 ルナは、両腕を十字型に組んだ。そして、光線を発射した。 しかし、それはすでにスペシウム光線ではなかった。七色に輝く、美しい光線だった。 「あ、あれは一体…」 それは、後に『マリンスペシウム光線』と呼称される光線で、ルナの必殺技『メタリウム光線』はこれの発展形である。 光線は、真っ直ぐにボスの胸を目掛けて直進し、やがて直撃した。そして、 「う…うわああ…」 光線は、その身体を貫通して背中から抜けていき、力尽きたボスドロボンは程なく爆発四散した。 ルナは、静かに発射ポーズを解いた。 「ルナ…」 ようやく立ち上がったジャックが、彼の元にやってきた。 「大丈夫ですか、先輩?」 ルナはよろけた彼の身体を支えながら言った。 「俺は大丈夫だ…。それよりルナ…、お前一体いつの間にあんな技を…?」 ジャックは訊いた。しかし、ルナは小さく首を振って、 「僕にも分かりません。ただ…、みんなを守りたい―それだけでした」 と答えた。 「後始末が大変だぞ、これは…」 冗談交じりにジャックは言った。 「ええ…」 宇宙空間に散らばった、無数のドロボンたちの亡骸を眺めながら、ルナは言った。 オリジナル小説 第四十五弾! ウルトラマンA THE ZERO 第四十五章 たたかうこと
ウルトラマンとして戦う事への恐怖と迷い――それらを払拭しなければならない。
しかし、そのためにどうすればいいか、ルナにもクレアにも見当がつかなかった。 明確な答えが見つからないまま、時間だけが過ぎていった。 そして、かれこれ数時間が経った。 その時、ドアがノックされた。 「誰だろう?」 ルナが立ち上がって出ると、カレンが立っていた。 「お邪魔だった?」 彼女は悪戯っぽく笑った。 「別に…」 と、ルナは目をむいた。するとカレンは、「ふうん…」と大きく頷いて見せてから、 「そ。じゃ、これ…」 と、布をかぶせた皿を彼に手渡した。 「ブランチよ。二人とも、まだ食べてないでしょ?」 と、彼女はウィンクした。 そう言えば、とうに昼を過ぎていた。 今まで気がつかなかったが、急に腹の虫が騒ぎ出した。 「どうもありがとう」 と、微笑しながらルナは、小声で 「君のアドバイスで助かったよ」 と囁いた。 「どういたしまして」 そう言うと、カレンは引き揚げていった。 「私たちを助けてくれた娘?」
相変わらず弱い声で、クレアが訊いた。 「うん。よく気の利くいい娘だよ」 受け取った皿をベッド脇の木箱の上に置きながら、ルナは言った。 布を取って見ると、中身はパンとハム、それにちょっとした野菜だった。 決して豊かではないだろうに、見ず知らずの自分たち二人に温かいもてなしをしてくれるカレンに、ルナは改めて頭の下がる思いがした。 (彼女の優しさは一体どこから来るのだろうか?もしも、宇宙があんな心の持ち主ばかりならば…) ルナは、そんな甘美な想像に浸りつつ、硬いパンをかじった。 一方、ビリーは仮眠室で横になっていた。 いつ次の攻撃があるとも分からないのだ。来るべき戦いに備えて今は身体を休めておくべきである。 しかし、まったく寝付けなかった。 いろいろな事が、走馬灯のように頭を駆け巡るのだ。 円盤生物の事、ザンパ星人の事、上層部の事…。もちろんその中にはルナとクレアの事も含まれていた。 しかし、何よりも彼を苦しめているのは、自らの資質であった。 (俺には、フォース長官のような人徳や、リュー隊長のような機転も、イナリーのような処世術も無いんだ…。ただ、猪突猛進するだけ…。勢いと威勢のよさだけが取り柄だ…。そんな俺に、この星の運命なんて、荷が重過ぎらァ…) 今でも、シルバーブルーメとノーバに襲われて、基地と運命を共にする覚悟を決めたリューの言葉が鮮明に脳裏に焼きついている。 『…生きろ。そして戦い、きっと勝て。これが、私の最後の命令だ!』 その言葉を信じて、彼は生きた。 しかし、実際はどうだろう? (隊長の遺志を継いで、何かが出来たか?一匹でも、自力で円盤生物を倒したか?) ビリーは首を振った。 (今回なんて、ウルトラマンを助けてやることすら出来なかったんだ…。それどころか、俺が助けられちまったじゃないか!そんな俺に、指揮官たる資格なんてあるのか…?) ビリーは唇を噛んだ。 (ルナとクレアも未だに行方不明だ。俺がもう少し、部下に気を配って入れば、こんな事には…。もしもの事があれば…、それは俺の責任だ…) 同じ頃、レナードはソレイユシティーを一望できる丘の上にいた。 そこから、夕闇に包まれ始めた大都会を見下ろしながら、思案にふけっていた。 (もう、俺しかいないのだ…) レナードは、今まで、自分のため、復讐のためだけに戦ってきた。 しかし、ここに来て、ルナと再会し、カレンに出逢って何かが変わり始めていた。 ―俺は何のために戦っているのか? 亡き父の復讐のため――ずっとそう思ってきた。 しかし、最近それが分からなくなっていた。 ―これが本当に、父の仇を討っている事になるのか? 正義のためだとか、宇宙の平和だとか、そんな高尚な目的のためではない。 遠い過去の怨念を晴らすために、自分の全てを、時に罪無き者の命を犠牲にしてきたのだ。 現に、この星でもすでに、少なからぬ犠牲を出してしまった…。 スペーグスと戦ったとき、ルナは言っていた。 『君はそれで満足なのか?…それが君なりの復讐なのか?弔い合戦なのか?それで君の父さんは喜ぶのか?』 と。正直なところ、レナードはこの言葉で少なからず心が揺らいだ。 ―確かにそうかも知れない。 宇宙警備隊の一員として、宇宙の平和を預かる一人として、最期まで誇りを持ち続けた父ヘラクが、今の俺の姿をどう見るだろうか? 『…それは自分の命よりも大切な事?』 いつかカレンはそう問うた。 もちろん、彼女は俺の過去など知るはずもない。たぶん、思ったままを口に出しただけだろう。 ―しかし…。 彼女の言う通りなのかも知れん…。自分の命を犠牲にしてまで果たすべき復讐がこの宇宙にあるのか? ―だとすれば…。 俺の今までは何だったと言うのだ?俺は、この先、何のために戦っていけば良いと言うのだ? 今更、宇宙警備隊に戻る気などない。 散々多くの犠牲を出しておきながら、いまさら“正義”などと言う資格もない…。 とその時、不意に背後に気配を感じて、レナードはサッと振り返った。
すると、そこに居たのはカレンだった。 「どうした?」 レナードは訊く。 「お腹…、空いてないかなと思って…」 と、カレンは持って来た小さなバスケットを差し出して笑った。 「……」 「余計なお世話だった?」 レナードが目を伏せたまま黙っていると、カレンは不安そうに言った。 「いや…」 レナードはゆっくりと顔を上げた。 「ちょうど良かったよ…」 その顔は、珍しく微笑んでいた。 「じゃ、食べよっか…」 カレンは、地面に色あせたハンカチーフを広げながら言った。 もう既に夕暮れである。 しかし、一向にクレアの恐怖を克服する方法は見つからなかった。 「私のせいよね…」 クレアは言った。 「私があの時、あんな事にならなければ、あなたは…」 「やめるんだ…」 「私と命を分かつ事はなかった…」 「やめてくれよ…」 「ウルトラマンになれなくなってしまう事も…」 「やめてくれっ!」 ルナは、つい大声を出してしまい、すぐに反省した。 「良いんだ…。君のせいじゃない。君と命を分かとうと決めたのも、君を助けようと決めたのも、この僕だ。それに、死にかけた事だって、君の責任じゃない…」 ルナは言い聞かせるように言った。 「でも…、このままじゃ、次にブラックガロンが現れたら…」 「…それまでに、何とかなるさ。して見せようじゃないか」 「でも…私、自信ない…」 「大丈夫だよ…」 ルナは、彼女の手を握って言った。 しかし、それには何の裏づけも無いのだ。 これでは、励ましどころか、気休めにもならないだろう。 「ところで…」 クレアは、ボソッと言った。 「ウルトラマンは、怖くないの?」 「……」 「戦う時、怖いって感じる事はないの?」 「……」 ルナは答えに窮した。 恐怖心―それは宇宙警備隊員が真っ先に克服しなければならないものである。 「それは…」 ルナは、目を宙に泳がせ、遠い過去の事を思い出す顔になった。 (そう言えば…) April 10 オリジナル小説 第四十四弾!! ウルトラマンA THE ZERO 第四十四章 ひかりさす
翌朝になると、身体の痛みはだいぶ引いたので、ルナは置き出してみた。
多少は痛むが、昨日ほどではない。杖を突けば、何とか歩く事もできそうだ。 ルナは手ごろな棒を探してみた。 すると、刃が取れて柄だけが残った鍬(くわ)が見つかった。かなり使い込まれていたが、何とか体重を支えてくれるだろう。 ルナは、それを杖代わりに、立ち上がってみた。
最初はさすがに心もとなかったが、慣れてくるとゆっくりとではあったが、歩き出せるようになった。 ドアを出て、辺りを見回してみた。 空は雲ひとつ無い、抜けるような青空だった。 しかし、その下に広がっていたのは、なんとも寂しい光景だった。 畑と牧場、あとは人家がまばらにある程度だった。 畑や牧場とは言っても、足で軽く払っただけで土ぼこりが立つような土壌で、とても肥沃とは思えなかったし、人家もとうにうち捨てられたという感じだった。 『ソーレへようこそ』 消えかけた文字でそう書かれた古い立て札が、陽だまりの中に虚しくたたずんでいた。 (『兵どもが夢の跡』か…) そんな廃村の光景を尻目に、ルナはクレアが居る方の小屋に向かった。 小屋はすぐそこにあった。
どうやら、ここもかつては納屋か何かだったらしい。 薄い板張りの壁は、ところどころに小さな穴が開いていた。 ルナは、小屋のドアを見つけると、その前に立って軽くノックした。 「クレア、僕だよ。開けてくれないか?」 しかし、何故か返事が無かった。 「クレア?」 ルナはもう一度同じ事を繰り返した。 すると、何の返事もないまま、その古びたドアが開けられた。 その向こうから現れた彼女の顔を見て、ルナは驚いた。 彼女はまるで幽霊のように青い顔をして、力なく立っていた。目は赤く腫れていた。 「大丈夫?」 馬鹿な事を訊くもんだと自覚しつつ、ルナは言った。 彼女は黙って、力なく頷いた。 「入っていいかい?」 クレアは黙って、彼を招じ入れた。 中は、昼間なのに薄暗かった。
電灯の一つもないその室内は、壁や天井の穴から差し込む光によってのみ照らされていた。 クレアは、例の藁を積んだベッドに腰掛けた。 ルナも、静かにその右隣にかけた。 「怪我は?」 そう訊くと、彼女は小さく首を横に振った。 大丈夫だと言いたいらしい。 「どうして、さっきから返事してくれないの?」 ルナは訊いた。 すると、クレアは目を伏せた。 「どうしたの?」 ルナは彼女を抱き寄せた。すると、その身体は小刻みに震えていた。 『恐怖』
昨日のレナードの言葉が頭をよぎった。
(この事か…) ルナは唇を噛んだ。 ――僕は、思い上がっていた…。彼女と心が通じた瞬間、全てを理解したと思い込んでいた。しかし、本当は何も分かっていなかった。彼女の迷いや恐れに気づく事が出来なかった。僕のせいだ…。
「クレア…」
うつむいていた彼女が、ほんの少し顔を上げた。 「僕が悪かった…。あの時、もう少し気を付けていれば…、君をこんな目に合わせる事は無かったのに…」 「……」 「全て、僕のせいなんだ。人間の心を理解したと思い込んでいた。しかし、違った。僕が見ていたのは、人間の心の一部に過ぎなかったんだ…。人間には、恐怖や迷いがあるという事には、目を背けていた。僕は…」 ルナは、そこで言葉を詰まらせた。そして、大きく肩を震わせて、涙を流した。 すると、彼の左頬に、何かが触れた。 クレアの左手だった。 「…ないよ」 かすれた声で、彼女は何か言った。 「え…?」 「ルナは悪くないよ…。だって、こうして気づいたじゃない…」 その表情は、相変わらず硬かったが、少しだけ生気が戻ったように見えた。 「クレア…」 そう言うと、ルナは彼女を思いっきり抱きしめた。 「もう、二度と…君をこんな目には遭わせない…」 「ええ…」 その様子をドアの隙間から見たカレンは、小さく微笑んで立ち去った。 一方、CPKでは新たな局面を迎えていた。 病院の会議室を借りて、そこに隊員を集めたビリーは壇上に立って言った。 「聞いてくれ。重大なニュースだ」 「いいニュースでなかったら、すぐに帰りますよ」 冗談めかして、シュペーマンが言った。 すると、珍しくビリーがそれに微笑んで、 「ああ。それなら心配ない。久しぶりの朗報だ」 と言うと、壇上を下りた。代わって、別の男がそこに上った。 「初めまして。科技研のルッツ主任技師です」 と、彼は言う。 すると、アルバートがそれに反応して、 「科技研といえば、MDFのシンクタンクですよね?エリート中のエリートが集まっているという…」 と言うと、ルッツは頭をかいて 「いやあ、皆さんにそう言われると、照れますよ」 と笑った。 「それで、ニュースとは?」 とシュペーマン。 すると、ルッツは急に真面目な表情になった。 「はい。まずはこれをご覧下さい」 そう言うと、天井から下ろしたスクリーンに、プロジェクターで何かを映し出した。 「こ、これは…」 それを見た隊員たちは絶句した。 「素晴らしいでしょう?これが、あなたがたの新戦力―『CPKカーゴ』です」 ルッツは言った。 「CPKカーゴ?」 「ええ。実は、MDF長官からの命令で、新戦力の開発を進めていたのです。もちろん、あんな事になる前の話ですが…」 「と、いう事は、MDFが壊滅した後も、あなたがたは研究を進められていたのですか?」 と、アルバート。 ルッツは頷く。 「ええ、もちろんです。我々に出来る事と言ったら、それくらいですからね…」 「それで、これは一体どういう機体なんですか?」 とクリス。 すると、ルッツは微笑んで、 「いい質問です。では、解説しましょう―」 と説明を始めた。 「まず、この機体は従来の航空機とは全く違った飛行システムを採用しております。我々は『ジオマグネチック・エンジン』と呼んでいますがね」 「ジオマグネチック?」 「ええ。つまり、地磁気を利用しているんです。内部に特殊なコイルを内蔵していて、それが推進力と浮力を兼ねます」 「なるほど…」 と、アルバートは頷く。 「そして、この機体の最大の特徴は、地磁気という大きなエネルギーを味方につけた事によって、従来よりもはるかに大きな重量に耐えられるようになったことです」 「つまり、たくさん物が積めるって事?」 と、クリス。 「そうです」 「へえ、キャンプの時に便利だな…」 と、シュペーマン。 しかし、それを無視して、ルッツは続けた。 「こうして輸送力が増した事により、この機体は『動く要塞』という機能を手にしました」 「動く要塞?」 「はい。この機体には、格納庫が内蔵されていて、コスモバード二機を搭載する事が出来ます。カタパルトを展開すれば、直接発進する事も可能です」 「それは、すごい!」 「さらに、輸送力だけではありません。ジェットではなく地磁気を動力にした事により、この機体は地上や水中、計算上は宇宙空間での運用も可能です」 「本当ですか?」 驚いたようにアルバートは言った。 「ええ。ただ、あくまで理論上・設計上の話ですよ」 「と、仰いますと?」 「まだ、テストを行っていないのです。急ごしらえでしたからね…」 「それで、機体は今、どこに…?」 「第三空軍基地の格納庫です。コスモバードも、何とか二機は確保してあります。現在、どちらも最終調整中ですが、二時間後にはいつでも飛べるようになりますよ」 「それまで、円盤生物が現れない事を願いたいですね…」 と、シュペーマンが言い、ビリーも 「ああ。二時間と言わず永久に現れて欲しくないがな…」 と、それに同調した。 そして、ビリーは再び壇上に上がると、全員に向かって、 「よし。では、レクチャーはこれで終わりにしよう。各自、部屋に戻ってゆっくり休んでくれ。解散」 と言い、会議室を後にした。 オリジナル小説 第四十三弾! ウルトラマンA THE ZERO 第四十三章 見えない壁
気がつくと、ルナはどこか見慣れない小屋の中に居た。古い農作業小屋らしい。
よく見ると、藁を積んで作った即席のベッドの上に寝かされていた。身体のあちらこちらに包帯も巻かれている。 (ここは、どこだ…?) ルナは起き上がろうとした。しかし、 「うっ…」 ルナはすぐにベッドに引き戻された。 傷が痛んだのだ。 すると、ちょうどその時、その小屋に誰かが入ってきた。 「駄目よ。無理しちゃ…」 少女の声だった。 少女は彼の元に寄ってきた。 「あなたはひどい怪我をしてるのよ」 と、彼女は言う。 「君は…?」 激痛に顔を歪めながら、ルナは訊いた。 「あたしはカレンよ」 「カレン?」 ルナには、その名に聞き覚えがあった。 「君は確か…、レナードの…」 「喋ったら駄目よ…」 そう言って、カレンは彼の背中を優しくさすった。 そうしているうちに少し痛みが落ち着いてきた。 ルナは、カレンに「もういい」と言って、横になったままゆっくりと彼女の方を向いた。そこで初めて彼は相手の顔を見た。 「やはり、君だったか…」 ルナは呟いた。 だが、カレンは怪訝そうな顔をしてこちらを見つめている。 ルナはハッとした。 (そうだ。ノーバ戦で見た時は、この娘は気を失っていたんだっけ…) 「ところで、ここは?」
ルナは話を変えた。 「あたしの小屋よ。オンボロで悪いけど…」 「どうして、僕はここに?」 「彼が運んできたのよ。あなたたちをね…」 と、カレンは出入り口のドアに視線を投げかけた。 その先には、いつの間にかやって来たレナードが立っていた。 「傷はどうだ?」 ルナの顔を見るなり、彼は訊いた。 「だいぶ痛むけど、何とか大丈夫だよ…」 ルナは答えた。 すると、傍らのカレンが、 「いいえ、相当ひどい怪我よ。当分は動かない方がいいわ」 と釘を刺した。 それに苦笑してから、 「ところで、クレアは?」 と、ルナは訊いた。 「クレア?」 カレンがオウム返しに訊きかえす。 「僕と一緒にいたはずなんだけど…」 「ああ。あの娘ね…」 「無事なの?」 「ええ。命に別状はないわ。ただ…」 「ただ…?」 「あの娘…、さっき目を覚ましたんだけど、それまでうわ言のようにあなたの名前を呼んでたのよ」 「僕の事を?」 「うん。彼女、何かとても怖い思いをしたみたいね…」 「怖い?」 「うん」 「クレアがそう言ったのかい?」 「いいえ。彼女は、起きてからまだ一言も喋ってないのよ。喋れないって言った方が正確かな?」 「なのに、どうして君には…?」 「分かるのよ。だって、あたし…」 と、そこでカレンはハッとなって言葉を詰まらせた。 「どうしたの?」 心配して、ルナが訊く。レナードも、黙ったままではあったが、彼女の事を見た。 すると、カレンは首を振って、 「ううん。何でもないの…。ゴメンね。変なこと言っちゃって…」 と言ったが、続けて、 「でも、彼女が怖い思いをしたっていうのは間違いないわ。とにかく、それは確かよ」 と言うと、逃げるようにその場を去っていった。 後には、ルナとレナードの二人だけが残された。 「どうしたんだろう?」 ルナは言った。 レナードは首を振って、 「俺にも分からん。だが、彼女も何かを抱えている。とても暗いものをな…」 と言った。 「ああ…」 と、ルナもそれに同調した。 「ところで…」 レナードは暫く間をおいてから切り出した。 「なぜ、お前が…いや、お前たちが負けたか分かるか?」 ルナは目を伏せた。 「ゾフィー副隊長にも言われたよ…」 「何と言ってた?」 「心を一つに出来なかったからだ、って…」 「お前はどう思ってる?」 「僕も、本来の力が出し切れなかったのは自覚してるよ。だが、納得できないんだ…。どうして、僕と彼女が、心を一つに出来なかったのか…」 「その理由が分からないか?」 ルナは黙って頷いた。 「教えてやろうか…?」 ルナはレナードを見上げた。 「壁だ」 「壁?」 「そうだ。言い換えれば、お前たちの心が一つになることを阻害する要素と言うべきか…」 「それは一体何なんだ?」 「恐怖。そして、それに伴う迷い…」 「恐怖と迷い…?」 「そうだ。それが、彼女の心の中にある限り、決してウルトラマンルナは本来の力を発揮できない」 「クレアが恐怖を抱いているというのか?」 「さっきのカレンの話を聞いていなかったのか?」 「……」 「確かに、彼女の言葉には裏づけは無い。だが、少なくとも今回に限っては、信じていいと思ってる」 「なぜ…?」 「俺もそう思うからだ」 「?」 「だったら、後で彼女に直接会って見るといい。そうすれば、お前にも分かるだろう…」 そう言うと、レナードは出口に向かった。 すると、ルナはそれを呼び止めて、 「レナード。なぜ君は、ブラックガロンと戦わなかったんだ?」 「……」 「ザンパ星人は君の宿敵だろう?ブラックガロンは明らかにその尖兵だった。それなのに…」 「俺は…」 「?」 「俺は、負けると分かっている戦いに臨むほど愚かではない」 「どういう意味だ?」 すると、そこでレナードはこちらを振り返って、 「白状しよう。俺は、あの戦いを見ていた」 「?!」 「そして、俺は確信したんだ。お前が負けると…」 と、ルナを強い目で見据えた。 ルナの表情は一瞬にして凍りついた。 「俺は、多くの星を渡り歩いてきた。いろんな星人にであったし、いろんな戦いを見てきた。だから気づいた。今のお前たちでは勝てない、と」 「最初から、ウルトラマンルナが不完全だと見抜いていたというのか?」 「そうだ」 「なら、なぜ…」 「なぜ、お前を援護しなかったのか?」 「……」 「簡単な話だ。もし、あの状況で助け舟を出していれば、或いはブラックガロンは倒せたかもしれん。しかし、その次はどうなる?」 「次?」 「そうだ。ウルトラマンルナは不完全で戦えない。そして、俺だってお前をフォローしながら戦えば、必要以上にエネルギーを消耗する。或いは深手を負う事だってあるだろう。そうなったら、次の敵とは誰が戦うんだ?」 「次の…敵?」 「そうさ。二人の巨人が二人とも万全でないとなれば、敵は当然そこに付け込んでくる。そうなったら、例えブラックガロンを倒せても、何の意味もなくなってしまう」 「だから、戦わなかったのか?」 「ああ、今回はな…」 「……」 「だが、次は必ず戦う。そして、勝つ」 「しかし、もし、君のいう次の敵が現れたら?」 「……」 「レナード?」 「とにかく俺は行く。お前がどうであれ、奴らが俺の宿敵であることに変わりはない。一人でもいくさ…」 「刺しちがえる積りか?」 「……」 「馬鹿な真似はよすんだ!もっと冷静に…」 ルナは必死でそう言った。しかし、レナードは再びドアの方を向くと、そのまま出て行ってしまった。 バタンと閉じられたドアが、二人を完全に隔てた。 (レナード…) ルナは拳を膝に振り下ろした。 (畜生…。どうすれば、いいんだ?僕はもう二度とウルトラマンにはなれないというのか?親友を助けてやる事も出来ないというのか?!) ルナの目からは、大粒の涙が零れ落ちた。 (副隊長…。僕はどうすればいいんですか…?) April 03 オリジナル小説 第四十二弾!! ウルトラマンA THE ZERO 第四十二章 ダーク・サイド
それから一夜が明けた。
しかし、
「ウルトラマンが負けた…」 その事実は、CPKにも、軍にも大きな衝撃を与えた。 負傷したビリーは、病院で治療を受け、そこで軍の司令官と電話で話した。 「我々、軍は今回の事態を重く受け止めている」 相手は率直に言った。 「ウルトラマンでもかなわない相手が現れた…。こうなった以上、我々は方針転換の道も探らねばならん」 「それはつまり、奴らに…、失礼。ザンパ星人に和睦を求めるということですか?」 「当然、それも一つの選択肢として考えねばなりませんなぁ」 「司令官。お言葉ですが、それは、今まで戦って命を落としてきた者たちへの冒涜では?」 「隊長代行。確かにあなたのお気持ちも分かります。しかし、犠牲者だけが増えると分かっている戦いを続ける方が、よほど死者の遺志に背くのでは?」 「しかしですね…、考えてみて下さい。今まで、散々残酷な手を使ってきた連中ですよ。たとえ、こちらが白旗を振ったとして、先方がすんなり我々を受け入れてくれるとは、とうてい思えません」 「確かに、その危惧はある。或いは全人類が敵の奴隷と化すことになるかも知れない。しかし、それでも生き残ってさえいれば、いつか再興の道も開けるかも知れんよ」 「それも一理あります。が、果たして本当にそうでしょうか?」 「?」 「私は、この一連の戦いを見てきました。そして、一つのことに気付きました」 「何だね?」 「心です」 「心?」 「そうです。ザンパ星人は、人間の心をたくみに利用しています。スペーグスの時もそうでした。彼らは、人間の心にウルトラマンへの敵意を植えつけようとしました。そして、次のシルバーブルーメ、ノーバの時は、人間の心の恐怖を利用したんです。恐怖と混乱によって、人間社会を内部から崩壊させようとしたのです」 「それで?」 「そして、今度は―これは私の個人的見解ですが―ウルトラマンを倒したことで、人間の絶望を煽ったんじゃないでしょうか?」 「……」 「絶望によって、戦意をそぎ、我々が自分たちに白旗をあげるように仕向けているのではないでしょうか?」 「……」 「もし、これが当たっているとすれば、我々が白旗をあげたが最後、希望を見失った人類は、二度と立ち上がれなくなりますよ」 「まさかっ…」 「悔しいですが、奴らは人間の心を操作しています。もしも、我々が今負けを認めれば、その瞬間、我々が奴らの奴隷になったと認めた事になるんですよ」 「……」 「司令官?」 「どうすればいいのだ…?どうすれば…」 「それは、これから考えていく事ですよ…」 そう言って、ビリーは静かに受話器を置いた。 「状況は芳しくないですか?」
傍らでそのやり取りを聞いていたシュペーマンは訊いた。 ビリーは小さく頷いてから、 「ああ。士気が落ちてるんだ」 と言った。 「やはり、ウルトラマンの敗北が…」 「それは大きいだろうな…。MDFが力を失った今、彼は円盤生物に対抗し得る唯一の存在だったんだからな」 「ウルトラマンは死んだんでしょうか?」 その問いに、ビリーはすぐには答えなかった。 「副隊長?」 「俺は…」 「?」 「俺はな、彼が死んだとは思えないんだ」 「しかし…」 「ああ、分かってるよ。俺だって、この目で見たんだ。ウルトラマンが力尽きて消えていくのを…」 「では…」 「だが、俺は思う。彼は…、ウルトラマンは神ではないせよ、何か特別な存在のような気はしないか?今までだってそうだったじゃないか。たとえ倒れても、また立ち上がった…。俺たちが諦めない限り…」 「副隊長…」 「……」 「お気持ちは分かりますが、現時点では、ウルトラマンは死んだものと考えなければなりません」 「分かってるよ…。それが、指揮官の務めだもんな…」 「ところで…」 「?」 「なぜ、黒い巨人が現れなかったと思いますか?」 「……」 「今までは、黒い巨人がピンチの時にはウルトラマンが、逆の場合には黒い巨人が現れていました。それなのに、なぜ今回に限って、黒い巨人は現れなかったんでしょうか?」 「俺も、それは考えたよ」 「それで…?」 「理由は俺にも分からん。ただ、二つの可能性があるとは思ってる」 「二つの可能性?」 「一つは、黒い巨人が何らかの理由で来られなかったか…」 「もう一つは?」 「或いは、意図して現れなかったか…」 シュペーマンは驚いた顔で、ビリーを見た。 「それは、つまり…、ウルトラマンを見殺しにした、ということですか?」 しかし、ビリーは小さく首を振って、 「いや…。そうは言ってない」 「と、言いますと?」 「つまり…、上手くはいえないが、黒い巨人にも、それなりの考えがあったんじゃないかって事さ…」 と、言った。 同じ頃、ルナは気を失っていた。 しかし、変な話だが、意識はあった。 その意識の中で、ルナは誰かに話しかけられた。 「ルナ…」 それは、宇宙警備隊副隊長ゾフィーの声だった。 「副隊長…。申し訳ありませんでした…」 「なぜ、謝るのだ?」 「僕は、規則を破りました」 「クレアという少女のことか?」 「はい…」 「…お前は、間違った事をしたと思っているのか?」 ゾフィーは訊いてきた。 「いいえ。偉そうな事を言うと思われるかも知れませんが、僕は自分が正しかったと確信しています」 「なぜ、そう思う?」 「僕は、一番救いたい人を救いました」 「どういう意味だ…?」 「彼女は、僕が…。いえ、我々ウルトラ人が忘れてしまった、多くのものを教えてくれました…」 「それは?」 「上手くは言えません。でも、それは確かに僕の胸の中にあります」 「そのために、自分を命を落とすところだったのだぞ…」 「こんな経験は初めてでした…。この命を引き換えにしてでも、救いたいと思ったのは…」 すると、ゾフィーは、 「馬鹿を言うな!」 と、いきなり語気を強めて言った。普段温和な彼には珍しい事だった。 「お前が死ねば、お前が守っている何億という命もまた失われる事になるのだぞ!」 「……」 「それに、お前はクレアという少女も殺しかけたのだ…」 「?!」 「ところで、ルナとクレアの行方はまだ分からないのか?」 ビリーが訊いた。 「ええ。無線の応答はありませんし、現場一帯を捜索しているのですが、今のところは…」 「そうか…」 「こんな時に、いったいどこへ…?」 「もしかしたら、戦闘に巻き込まれて、大怪我をしたのかも知れんな」 「病院や救護所をあたってみます」 そう言うと、シュペーマンは駆け出していった。 ビリーがそれを見送ると、ほぼ入れ替わりに別の男が入ってきた。 「お久しぶりです」 相手は言った。 「君は、確か…」 「はい。CPK科学技術研究所主任技師のルッツです」 「どういうことですか?」 ルナは訊いた。 「お前は、不完全な状態で合体変身をした。そのためにブラックガロンに敗れたのだ。そして、命を落としかけた…」 ゾフィーは言った。 「それは…」 「ウルトラマンルナが死ねば、同時に彼女も命を失うのだぞ」 「それは分かります。しかし…」 「しかし、なぜ不完全だったのかが分からない、か?」 「そうです。教えて下さい!」 「それは、簡単な話だ」 「?」 「お前と彼女が、真に心を一つに出来なかったからだ」 その言葉は、ルナにはあまりにも意外だった。 「そんな…。そんな筈はありません。僕と彼女は…」 「確かに、お前たちは心を通じ合わせる事は出来た…」 ルナの言を遮るように、ゾフィーは言った。 「……」 「だが、通じる事と、一つになる事とは、全く別問題だ」 「それは、どういう意味ですか?」 「ルナ…」 「はい」 「ウルトラ5つの誓いを忘れたか?」 「?」 「『他人の力を頼りにしない事』」 「……」 「ルナ。これは自分で選んだ道だ。ならば、最後まで走り抜け。自分の足で…」 そう言い残して、ゾフィーは彼の意識の中から消えていった。 その直後、ルナは目を覚ました。 オリジナル小説 第四十一弾! ウルトラマンA THE ZERO 第四十一章 戦いの行方
「うおおお…」
ビリーは走りながらランチャーを乱射した。 ブラックガロンの身体のあちこちで、小規模な爆発が起こる。 しかし、相手は知らぬ顔で、相変わらず馬乗りウルトラマンを痛めつけている。 (人間なんざ眼中に無し、かよ!) すると、ビリーは立ち止まって、ランチャーをしっかりと構えた。 「この野郎ッ!こっちを向きやがれぇ!!」 ブラックガロンの左目に狙いを定めた。そして、トリガーを引く。 「ギャーーース!!」 ブラックガロンは悶絶した。 そして、その瞬間、ルナにかかっていた体重がふっと軽くなった。 (今だ!) ルナは、全力で相手の身体を押しのけた。そして、何とか脱出に成功すると、地面を転がって出来るだけ敵から離れた。 既に、胸のカラータイマーは点滅を始めていた。 「グググ…」 ブラックガロンは左目を押さえながらよろよろと立ち上がった。そして、眼下のビリーを睨みつけた。 (ちぃとばかしやばいな…) ビリーもさすがに半歩後ずさった。 すると、ブラックガロンは両手を前に差し出し、手先の穴から火花のような眩いスパーク光線を発射した。 (やばいぞッ!) ビリーはランチャーをその場に放って、全力で走り出した。 しかし、火花は容赦なく彼に降りかかってくる。まるで滝壺の水しぶきのように。かわすのも容易ではない。 火花が落下するたび、そこの地面は炎をあげて爆発した。 あっと言う間に、辺りは火の海と化した。 輻射熱がビリーの肌に容赦なく襲い掛かってくる。 隊員服とヘルメットは、ある程度の熱に耐える構造にはなっていたが、どこまで持ちこたえてくれるか分からなかった。 とにかく熱い。 足元から溶けてくるようだった。 (鉄板の上のバターになった気分だぜ…) やがて、進行方向にも炎が回った。 (やばいぞ…。いよいよやばい…) 見回したが、どこにも逃げ道や隠れ場所は見当たらなかった。 そうしている間にも炎が、ブラックガロンが迫ってきた。 (万事休す、か…) その時だった。 彼の目の前に、大きな銀色の手が差し伸べられた。 ルナである。 「乗れと言うのか?」 ルナは黙って頷く。 「恩にきるぜ…」 ビリーはそれに従った。 彼が乗ると、ルナはそのまま手を持ち上げ、彼を火中から救い出した。 そしてルナは、彼を部下たちの居る場所に下ろすと、再び敵に向かっていった。 しかし、ブラックガロンは今度はこちらに突進してくることはしなかった。 スパーク光線を撒き散らし、彼を一歩たりとも近づかせまいとした。 それでも、ルナは向かっていこうとしたが、敵の光線の熱量は尋常ではなかった。 「ウオッ…」 顔や腕に火花を浴びたルナは、思わず後ずさった。 すると、それを好機と見たブラックガロンは、その光線で一気に攻勢に転じた。 ルナは、ただただそれをかわすだけだった。 そうしているうちに、カラータイマーの点滅が激しくなった。 (はやく決着をつけなければ…) ルナは焦った。 そして、ルナは、賭けに出た。 バック転で一旦後退すると、ルナはL字型に腕を組み、メタリウム光線を発射した。 光線は見事に命中。大爆発を起こした。 (やったか…?) ビリーが、いやこの戦いを見ていた全ての者が、恐らくそう確信しただろう。 しかし、弾着の煙が切れた時、ルナが、全員が凍りついた。 ブラックガロンは平気な顔をして立っていたのだ。 「そんな馬鹿なッ!!」 ビリーが絶叫した。 「ウオ…」
今の一撃で、いよいよ体力を消耗したルナは、片膝をついてしまった。もはや、立ち上がって更なる攻撃を仕掛ける力も残されていなかったのだ。そして…、 「あっ!ウルトラマンが…」 クリスが叫んだ。 見ると、ウルトラマンの身体は徐々に傾いていった。 そして遂に、完全に地面に倒れこんでしまった。 「駄目だ…。ウルトラマン、立つんだぁ~!」 ビリーが叫んだ。 「そうよ。立って…。あいつをやっつけてよ~」 とクリス。 しかし、彼らの声も虚しくこだまするだけだった。そして、 「あッ、ああッ…」 「ウルトラマンが…」 「消えていく…」 「……」 ルナは、次第に半透明になっていき、やがて完全に消えてしまった。
あとには、ルナの形に陥没した地面だけが残った。 すると、それを見届けたブラックガロンは、 「ギャース!」 と、一回だけ吼えると、こちらも夜の闇の中に、静かに消えていった。 「死んだ…、のか…?」
と、シュペーマン。 「いやあぁーーーーーーー!」 と、クリス。 「……」 「……」 あとの二人は一言も発しなかった。発せなかったというべきか…。 ウルトラマンが負けた…。円盤生物に負けた…。侵略者に負けた……。 今宵の夜陰は、一段と深かった。 March 27 オリジナル小説 第四十弾!! ウルトラマンA THE ZERO 第四十章 見よ!真夜中の大変身
ファイターワンの最期を見たルナは歯噛みした。
「ねえ、ルナ」 傍らからクレアが囁いた。 「あなたの力で、何とか出来ないの?」 ルナは気がついた。 (そうだ…。まだ彼女には重大なことを伝えていなかったのだ…) 「クレア…」 ルナは言った。 「いいかい?よく聞くんだよ…。ウルトラマンルナは、もう僕一人のものではないんだよ…」 「え…?」 彼の意図を掴みかねて、クレアは怪訝そうな顔をした。 「ウルトラマンは…、僕であり、君なんだよ…」 その時、援軍の攻撃機10機が到着した。 「ひでぇ…。なんて事だ…」 部隊長のタケダ大尉は呟いた。 「隊長。ご指示を…」 部下のパイロットがそう言ってきた。 「よし。各機、私に続き、敵を攻撃せよ。決して市街地に入れてはいかん!」 「了解!」 10機の攻撃機の群れは、隊長機を先頭にVフォーメーションを組んだまま、ブラックガロンに向かっていった。 そして、至近距離からロケット弾を撃ち込む。 雨あられの如く、ロケット弾がブラックガロンに降りかかる。 敵は、瞬く間に炎と弾着の煙に包まれた。 「やったか?」 タケダは黒煙に包まれた敵の姿を認めようと、目を凝らした。 しかし、その期待は裏切られた。 ブラックガロンは健在だったのだ。 ブラックガロンはまるで自分を倒せなかったタケダをあざ笑うかのように、咆哮した。 タケダは歯噛みした。 「怯むな!全機、攻撃を続行せよ!!」 「どういうこと…?」 クレアは困惑した目で言った。 「僕は、あの瞬間―君を生き返らせた瞬間―に、ウルトラマンの生体エネルギー、つまり命を半分君に与えたんだ。だから、君は瀕死の重傷から立ち直る事ができたんだ。君の左の中指にはまっているウルトラリング、それがその証拠なんだ」 「……」 クレアは黙ってウルトラリングを見た。 「しかし、それは同時に、ウルトラマンという一人の巨人を、二つに分かつことだったんだ。つまり、今の僕には半分のウルトラマンしか居ないんだ」 「じゃあ、残りの半分は…」 ルナはコックリ頷いて、 「そうだよ。君の中に居るんだよ…」 と、言った。 「半分でも、人間として暮らす分にはなんの問題もない。しかし、ウルトラマンにはなれない…」 「じゃあ、どうすれば…」 「僕の中のウルトラマンと、君の中のウルトラマン…。その二つをあわせるんだ」 同じ頃、空軍の攻撃機は、タケダ機を含めて5機にまで減っていた。 彼らはとりあえず敵の攻撃の届かない上空を旋回していた。 「何て手強い奴だ…。あの火花と舌を封じなければ、迂闊に手が出せんな…」 タケダは呟いた。 「奴に死角はないのか?」 部下の一人が言った。 「背中なら…」 と、別の部下。 「馬鹿!背中は特に頑丈に出来てるんだ。考えろ!」 「しかし、何か手を考えねば…」 タケダは考えあぐねた。 「隊長!」 「どうした?」 「敵が、市街地に向けて進行しています!」 「何ぃ?!」 見ると、確かにブラックガロンは街の方に歩みだしていた。 「畜生!こっちが手を出せないのをいい事に…」 「毒づいていても、仕方が無い。一か八か攻撃してみよう」 タケダは言った。 「しかし…」 「無謀は承知だ。しかし、このまま奴が街を破壊するのを、こんなところで眺めているわけにはいかんだろう」 「それは、そうですが…」 「よし。全機私に続け!正面に回り、敵の進行を食い止める!!」 「了解!」 しかし、それはあまりに無謀と言えた。
5機の攻撃機が、正面に周り攻撃アプローチに入ると、まるで「待ってました!」とばかりにブラックガロンは不気味な雄たけびを上げた。そして、 「うわぁ!!」 まず、一機が敵の舌に捕まった。 「脱出しろ!」 タケダは叫んだ。 しかし、時既に遅し。 ブラックガロンは捕まえた機体を振り回して、それを後続の別の機体にぶつけた。 「ああッ!!」 「ギャアッ!!」 それは運悪く、さらにもう一機を巻き込む大惨事となった。 あと、2機。 「もう私とお前だけだな…。だが、最期まで行くぞ!」 「はッ!」 「もう、時間が無いんだ。早く行かないと…」 ルナは言った。 「でも、一つにするってどうやって?」 「簡単な事さ…。僕と心を一つにして、二つのウルトラリングを合わせるんだ。そうすれば…」 「ウルトラマンになれるのね?」 「うん」 「分かった。やってみるわ…」 「よし」 そう言うと、二人は目を閉じて、大きく息を吸い込み、吐いた。 そして次の瞬間、二人は飛んだ。 『ウルトラ・フライング・タッチ!!』 空中で一つとなった二人は、眩い光に包まれた。 一方、上空では、最後の一機がとうとう被弾した。 「畜生…。ここで終わりかよ…」 タケダは悔しそうに言った。この高度では、もはや脱出もできまい。 その時だった。 彼の機体は不意に、何かに受け止められた。 「?!」 慌てて、彼が見ると、そこには青き巨人―ウルトラマンルナが居た。 彼は、その手で、ひしとタケダ機を受け止めていた。 「助けてくれたのか…?」 ルナは大きく頷くと、その機体をゆっくりと安全そうな場所に置いた。 一方、ブラックガロンもルナの出現に気付いたようだった。 今まで街の方を向いていたブラックガロンは、回れ右をしてルナの方を向いた。 「ギャース!」 ブラックガロンは咆哮した。 「シュワッ!」 ルナも、ファイティングポーズをとる。 一方、地上では、CPKの隊員たちがようやく戦闘態勢に入っていた。 「ウルトラマン…」 アルバートが呟いた。 「よし。俺たちも援護に回るぞ!」 と、ビリー。 「ところで、クレアちゃんとルナくんは?」 と、言ったのはクリスだった。 「そういえば、あの二人はどこに…?」 と、シュペーマン。 「連絡も取れませんよ…」 と、クリス。 「しょうがない奴らだな…、こんな時に」 シュペーマンは舌打ちした。 しかし、ビリーは存外落ち着いた様子で、 「そう言うな。きっとあの二人のことだ…。また、逃げ遅れた人でも見つけて、手助けしてるのかも知れない…」 と、言った。 「ジュワッ!」 ルナはブラックガロンに向かって突進した。 すると、相手もそれに負けじと向かってくる。 両者は中間地点あたりで激しく衝突し、爆発音に似た大きな音が、一帯に響き渡った。 「ウオオ…」 「グググ…」 両者は一歩も引かなかった。 そして、やがて激しい取っ組み合いになった。 「ウオォ!!」 ルナは投げを打とうとする。 しかし、ブラックガロンは怪力でそれに対抗する。 そんな一進一退の攻防が暫く続いた。 しかしある時、 「ウワアッ!」 ブラックガロンに、内側から脚を払われてバランスを崩したルナは、激しく転倒し、さらにその上から敵がのしかかってきた。 相手の体重が、容赦なくルナの身体に襲い掛かってきた。 ルナは何とかそれを押しのけようとするが、まるでビクともしない。しかし、それは相手の体重のせいだけではないように思われた。 「ウルトラマンが危ない!援護するぞ!!」 ビリーは、ジープから降ろしたロケットランチャーを担いで言った。そして、 「アルバート、シュペーマン。俺に続け!」 と、トリガーを引いた。 激しい反動と共に、ロケット弾が撃ち出された。それは、夜空に白い軌跡を描いて、ブラックガロンの甲羅に直撃し、火柱を上げた。 続くシュペーマン、アルバートもそれに倣う。 しかし、そのいずれもあまり功を奏してはいなかった。 「駄目だ…。こんな武器じゃ、歯が立たない…」 アルバートが言う。 「馬鹿野郎!諦めてどうする?見ろッ!ウルトラマンだって必死で戦ってるじゃねぇか!!俺らじゃなくて、誰がウルトラマンをフォローするんだ?!」 そう一喝すると、ビリーは次の武器を取った。 それは、白兵戦用の『アサルトランチャー』だった。 「俺が、こいつで至近距離から奴を撃つ!お前たちはここから援護しろ」 ビリーは言った。 「無茶ですよォ…」 クリスは言った。 「同感だな…。命を捨てるようなもんです」 と、シュペーマン。 しかし、それでもビリーは意志を曲げなかった。 「じゃ…、頼むぞ!」 そう言い残して、ビリーは敵のいる方へ駆けて行った。 オリジナル小説 第三十九弾! ウルトラマンA THE ZERO 第三十九章 夜襲!
それから2日後の夜、その情報は突然飛び込んできた。
「何事ですか?」 電話を取り次いだ、病院の事務員から受話器を受け取ったビリーが言った。相手は空軍の管制官だった。 「こちらのレーダーが、未確認の飛行物体の影を捉えました。方位は北北東。座標○○からそちらに真っ直ぐ向かっています」 と相手は言う。 「到達予想時刻は?」 「このままで行けば、およそ30分後には…」 「隕石である可能性は?」 「皆無です。衛星にも感度はありませんでしたし、第一飛び方が不自然です」 「航空機か?」 「いいえ。こんな機影の航空機は見たことがありません」 「迎撃できないか?」 「2分ほど前に、当方の戦闘機二機がスクランブル発進しました。五分後に目標と接触します」 「何か分かったら、追って連絡しろ」 そう告げて、ビリーは受話器を置いた。 振り返ると、もう既に、隊員たちがやって来ていた。 「傷はもう良いのか?」 ルナとクレアを見て、ビリーは訊いた。 「大丈夫です」 二人は同時に答えた。 「何事ですか?」
シュペーマンが全員を代表して訊いた。 「正体不明の飛行物体の影を、空軍のレーダーが捉えた」 「また、円盤生物ですか?」 慌てた様子でルナが訊いた。 「まだ何ともいえない。空軍が今、調査に向かってる。まもなく結果が伝えられる筈だ。それを待とう」 努めて冷静に、ビリーは言った。 「ここに向かっているんですか?」 「そうらしい…」 同じ頃、怪飛行物体が確認されたポイントには、空軍の戦闘機が到着していた。 ソレイユシティーから北北東に、数百キロの地点の洋上である。 「こちらファイターワン」 戦闘機のパイロットは言った。 「目標は発見したか?」 管制官は訊く。 「はい。何か、巨大な飛行物体が見えます」 「航空機か?」 「そうは見えません」 「では、何に見える?」 「そうですね…。何と形容したらいいか…。ううん…、表面はまるで岩石のようにゴツゴツとしています。金属ではありません。大きさは…、およそ4~50mでしょうか」 「他には?」 「火花を吹いています。とても綺麗だ…」 「火花?」 「ええ。まるで流れ星の尾のようです」 「宇宙船か?」 「分かりません。攻撃しますか?」 「いや、待て。一応警告を与えろ。万が一宇宙船だった時が厄介だ」 「了解」 そう答えると、パイロットは無線で呼びかけた。 『警告。貴船はわが国の領空を侵犯している。直ちに応答が無い場合は、遺憾ながら貴船を撃墜しなければならない。応答せよ、応答せよ』 それを数回繰り返したが、何の音沙汰も無かった。 「応答ありません」 彼は管制官に報告した。 「そうか。では、仕方が無い。威嚇射撃を許可する」 「了解」 すると、物体と平行して飛んでいた二機の戦闘機は、散開して攻撃態勢に入った。
そして、二機は一斉に機銃掃射による威嚇を始めた。 暗くて見えなかったが、撃つたび、下の海面には白いしぶきが上がった事だろう。 しかし、物体は相変わらず何の反応も示さなかった。 「おかしいな…」 パイロットは言った。 すると、一緒に飛んでいる同僚も、 「どうして、何の反応も示さないんだ?やはり、あれは宇宙船じゃないんじゃないか」 と言い出した。 「管制塔。指示を請う」 パイロットは言った。 「では、撃墜を許可します」 「了解」 すると、パイロットは同僚に、 「よし。俺たち相手になめた真似をしたらどうなるか、宇宙のお客さんにとくと教えてやろうぜ!」 といい、同僚も 「了解!」 と応じた。 二機の戦闘機は、物体の後方に付いた。
そして、再び機銃掃射。もちろん今度は威嚇ではない。 二機の放った銃弾は、物体に直撃した。しかし、 「何てことだ?!」 パイロットは思わず声を上げた。 物体は、機銃の弾をマシュマロのように弾いたのである。 「何て頑丈な奴だ…。機銃じゃ駄目だ…」 「大変です。市街地が近づいています。早く片付けないと…」 「よし。サイドワインダーに切り替えて再度攻撃だ。次で仕留めるぞ!」 「了解!」 二機の戦闘機のうち、ファイターワン(一号機)が先行して飛び、物体の真後ろについた。二号機は一歩退いて、それを見守る形となった。
「よし。これで終わりだ…」
物体を照準器の〔+〕マークにあわせながら、パイロットは呟いた。 そして、照準がロックされたことを知らせる「ピー」という音を合図に、彼はトリガーを引いた。 それと同時に、右の主翼に装備されたミサイルの一本が切り離され、点火した。そして、一直線に目標の物体へと吸い込まれていった。 「行けっ!」 着弾。そして爆発。 物体は紅蓮の炎に包まれ、夜空に一際明るく輝いた。 物体は、徐々に高度を失い、緩やかな下降線を描いて、ソレイユシティーの外れの造成地に土砂を巻き上げて落下した。 「こちら、ファイターワン。目標の撃墜に成功した。目標は街外れの造成地に落下した模様。人的被害の有無は不明だが、見る限りでは付近は人家がまばらで、特に大きな被害は出ていないようだ」 一号機のパイロットはそう報告した。 「ご苦労。あとはCPKと警察の仕事だ。君らはもう引き揚げ給え」 「了解」 そういって機体を旋回させようとした時だった。 「おい、あれは何だろう?」 と二号機の同僚が言った。 「何?」 と、先ほど物体が落下した地点を見下ろして、パイロットの顔色が変わった。 「管制塔、管制塔。応答せよ!」 彼は言った。 「何事だ?」 「大変だ。物体が…」 「物体がどうしたというんだ?」 「物体は…、物体は生物でした!!」 「何だと?」 パイロットが見たもの…、それは物体の落下したクレーターから這い出してきた亀のような円盤生物『ブラックガロン』であった。
二本立ちになると、ブラックガロンは頭上を飛ぶ二機の戦闘機を目で追った。 ちょうどその頃、空軍から落下地点を教えられていたビリーたちは、ジープで現場近くまで来ていた。 「あれは…!」 アルバートが思わず声を上げた。 「円盤生物だ!」 彼の言を継ぐ形で、ルナが言った。 「クラゲ、テルテル坊主ときて、今度は亀か…」 とシュペーマン。 「どうするんですか?」 とクリス。 「とりあえず、攻撃は空軍に任せて、住民の避難が先だ!」 ビリーは言った。 「簡単に言わないで下さいよ。ただでさえ暴徒化寸前の市民を、この大パニックの中でどうやってスムーズに避難させるんです?」 シュペーマンは反発した。もっともである。 「だが、何もしなけりゃ、救える命も救えねぇ。とにかくベストを尽くすんだ!」 二機の戦闘機は、ブラックガロンの周りを旋回していた。 「ファイターワン、ファイターツー。まもなくそちらに応援の部隊が到着するはずだ。それまで、敵を足止めしておいてくれ」 管制官は言った。 「どれぐらい稼げばいいんです?」 「15分程度だ」 「了解。やってみます」 「健闘を祈る」 そこで、管制塔との交信を終えると、今度は二号機からの通信が入った。 「おい。あの怪獣の野郎、こっちを睨んでるぞ」 「そりゃそうだろう。やっこさんを撃ち落した張本人なんだから」 「どうする?」 「どうするもこうするも、俺たちにできることは一つだろう」 「ああ」 「足止めといわず、俺たちで仕留めようぜ!」 二機の戦闘機は急上昇し、ブラックガロンに真上から機銃掃射を浴びせた。
しかし、相変わらず意に関せずという顔をしている。 「面の皮が厚すぎるぜ…」 そこで、今度は二号機が敵の正面からサイドワインダーで攻撃する事になった。 「食らえ!」 二号機はミサイルを連射した。 ミサイルは、すべて敵の身体で炸裂し、そのたび激しく火柱を上げたが、それ以上の効果があるようには見えなかった。 「畜生め!」 二号機は敵の鼻先を掠めて、そのまま急上昇しようとした。その時だった。 「危ない!!」 と、一号機のパイロットが叫んだときには既に手遅れだった。 ブラックガロンが、両手先の穴から、火花のようなスパーク光線を噴出したのである。 「うわあッ!」 火花に包まれた二号機は瞬く間に火ダルマとなり、爆発四散した。おそらく、脱出する暇も無かったろう。 「貴様ーーー!!!」 一号機のパイロットは絶叫すると、敵の目線よりも上の高度を維持したまま正面から接近した。 そして、同僚の弔い合戦とでも言うように、ミサイルを畳み掛けるように撃ち込んだ。 彼は確信していた。あの火花は目線よりも上には飛ばない、と。 計算どおり、ミサイルを撃ちつくして上昇する時も、敵の火花を浴びることは無かった。しかし、 「うおッ!!」 上昇する途上、彼の機体を激しい衝撃が襲った。見ると、機体は空中で完全に静止してしまっている。 (どうしたんだ?!) 怪訝そうに後ろを見て、彼は絶句した。 彼の機体を引き止めたもの―それは長く伸びたブラックガロンの舌だったのだ。 「管制塔、こちらファイターワン。家族に伝えてくれ。『愛していた』と」 直後、ファイターワンとの交信は途切れた。永久に…。 March 20 オリジナル小説 第三十八弾!! ウルトラマンA THE ZERO 第三十八章 一匹狼
同じ日、レナードはいつもの小屋に居た。
カレンはまだ眠っている。 当然だろう。あれだけ長時間、円盤生物に憑依されていたのだから。 それなのに、彼女は安らかな表情で眠っている。 レナードはその寝顔を見て思う。 (この娘が狙われたのは、やはり俺のせいか…) 俺は、スペーグスとの最初の戦いで傷つき、彼女に助けられた。 ノーバとの初戦に敗れた時も同じだった。 そして昨日、彼女はザンパ星人に狙われたのだ。 星人は見ていたのだ。そして気づいたのだ。 この娘が、俺のウィークポイントだと。 しかし、星人の見方は間違っていない。
俺は、知らずのうちにカレンに好意を…、いや今までに抱いた事の無いもっと特別な感情―この星の人間が“愛”だとか“恋”と呼んでいる感情―を胸の中に抱いていたのだ。 それは遠い過去、祖先たちが失っていった感情の筈だった。 しかし、なぜそれが今になって? 分からない。 或いは、このイナリーとか言う人間の肉体を借りた事が原因かも知れない。 便宜上とはいえ、俺はこの男と一体化した。 そのために、宿主たる彼の原始的肉体の持つ性質が、俺自身に流入してきたことは十分に考えられる。 しかし、今は理由を考える時ではない。 こうなってしまった以上、カレンは今後も奴らに付け狙われる事になるだろう。 (俺としたことが…) レナードは頭を抱えた。 不意に外の空気を吸いたくなって、レナードは小屋を出た。
もう昼を過ぎている。 干し草が、牧草が燦々と日光を浴びて、輝いている。 不意に、レナードは背後に気配を感じた。 「誰だ?」 すぐに振り返ることはせず、後ろ向きのままレナードは言った。 「さすがはレナード。噂に聞くだけはある」 相手は言った。 レナードはそこで初めて後ろを向いた。 そこには、白いローブを着た、若い男が立っていた。首からは、特徴的なペンダントを下げていた。 「マゼラン星人に知り合いは居ないが…」 レナードは言った。 すると、相手は感心したように、 「ほう…、さすがだ。ならば、話が早い」 と言った。 「何の用だ?」 「お前に頼みがある」 「頼み?」 「そうだ。ザンパ星人どもを倒して欲しい。我々のために…」 「?」 「ザンパ星人は今、この太陽系を狙っている。しかし、太陽系は要衝だ。ここに奴らの要塞などを建てたらたら、恥ずかしながら我々のような弱小文明はひとたまりもないのだ」 「弱小だと?笑わせるな。貴様らの文明は、有害と判断した他文明を惑星もろとも滅ぼしていると聞くぞ」 「ははは…。そこまでご存知とは…。左様。しかし、ザンパ星の戦力を比べたら物の数ではない。この太陽系を中継基地にされたら、間違いなく奴らに攻め落とされるだろう。いや、我々だけの問題ではない。もっと多くの星が戦火にさらされることになるだろう」 と、星人は言った。 「だったら、いっそこの星の人間たちと同盟でも組んで、共同戦線を張ったらどうだ?」 「笑わせるな。そんなことをすれば、ザンパ星との全面戦争になってしまう。そうなれば、奴らは今とは比べ物にならんくらいの大軍勢を送り込んでくるだろう。そうなれば、我々はおしまいだ」 「だから、表だって動けないというわけか…」 「そうだ」 「それで、俺に代理戦争をやれ、と?」 「そうだ」 「嫌だといったら?」 すると、相手は急に鋭い目つきになって 「その場合は、仕方が無い…」 と言い、間髪おかずにどこからともなく仲間らしい白装束の男女が5人ほど現れた。全員銃を携えている。 彼らは信じられないほどの機敏さで彼をあっという間に包囲した。 「何の積りだ?」 レナードも緊張した表情になっていった。 すると、相手はニコリともせずに、 「簡単なことですよ。あなたの首を頂戴するんです」 「俺の首を取って、それを手土産にザンパ星人に和睦を請う積もりか?」 すると、相手は高笑いして、 「馬鹿を言うな!なぜ我々があんな虫けらどもに跪かねばならんのだ!」 と言う。 「では…?」 「お前の首を取ったことを全宇宙に発信するのだ。ザンパ星人がお前相手に手こずっていたという事実も添えてね…。そうすれば、間接的にではあるが、我々がザンパよりも上だということが証明できる。そうなれば、奴らの地位は失墜し、同時にマゼランになびく星も出てくるだろう」 「そして、マゼランが宇宙の覇者になる、と?」 「そうだ」 「それこそ笑える冗談だ…」 レナードは言った。 「何だと?」 「だって、そうだろう?そんなちゃちな考えが、上手くいくと本気で考えてるんだもんな」 「なぜ、上手くいかないと分かる?」 少し苛立った様子で、星人は言った。 レナードはそれをさりげなく見て取った。 「理由は二つ…」 レナードは続ける。 「一つは、たとえザンパの地位が失墜したとしても、宇宙はマゼランにはなびかないということだ。俺は宇宙を旅してきたから分かるが、宇宙はお前らが考えるよりも、ずっとしたたかだ。ザンパが失墜すれば、それを好機と見たお前らのような星が一斉に挙兵するぞ。そうなれば、お前らでは収集は付けられまい」 「面白い。もう一つは…?」 「二つ目…。これはもっと簡単さ。それは…」 すると、レナードはその場踏み切りで飛び上がった。 レナードは、そのまま空中で一回転して星人の包囲網の外に着地した。 咄嗟の事で、対応に遅れた星人たちは慌てた。 その隙に、レナードは星人の一人を殴り倒して銃を奪った。 直後、仲間の一人が彼に銃を向けたが、レナードは今殴り倒した星人を盾にしてそれを防ぐと、奪った銃で逆に相手を射殺した。 レナードはぐったりなった星人の死骸をその場に投げ出すと、身軽な動きで再びジャンプして今度は小屋の屋根に上った。幸い傾斜の無い屋根だったので、足場には事欠かなかった。そして、そこから狙い撃ちにした。 「うわぁ!」 「ぐぇ…」 これで二人倒した。あと二人。 すると、そのうちの一人が屋根に上ってきた。女だった。 女は容赦ない銃撃を加えてきた。無表情のままで。 レナードは何とかそれをかわすと、自分の持っている銃を相手に投げつけた。 すると、それに驚いた女も銃を落とした。 レナードはそれを見逃さなかった。 彼は、銃を拾い上げようとする女に飛び掛ると同時に、落ちていた銃を下の地面に蹴落とした。 取っ組み合いになった。 相手は華奢だったが、妙に力は強かった。 レナードは相手を押さえ込もうとしたが、女は逆に膝蹴りでレナードのみぞおちに一撃を加えてきた。 「ぐは…」 レナードは悶絶した。 すると、その隙に今度は女が彼を押さえ込んだ。 万力のような握力で、喉を締め上げられた。 だんだん意識が遠くなってくる。 (やむを得ん…) レナードは奥の手を使った。 強力なテレパシーを一気に相手の脳に送り込むのである。 「うぅ…」 女の手から力が抜けた。 レナードの気道に新鮮な空気が流れこむ。 やがて、女の身体は力なく崩れ落ちた。 許容量を超えた量の情報が流入したことで、脳の活動が停止してしまったのである。 レナードは、見開かれたままの女の瞼をそっと閉じてやった。 あと一人…。
そうレナードが思った時だった。 「レナーーーード!」 それは、最初に現れた男の叫び声であった。 レナードは下を見た。 「畜生!」 レナードは毒づいた。 その目に映ったのは、まだ目を覚まさないカレンを左腕に抱え、こちらに銃を向けているあの星人であった。 「貴様!自分のしていることが分かってるのか!?」 レナードは言った。 「もちろんだ。私はなんとしてでも、お前の首を戴く!さあ、レナード。この女の命が惜しければ、大人しくここに来るんだ!」 マゼラン星人は言った。 「そうか…」 そういうと、レナードはさり気なくレナード・アイをはめた。そして、 「デュワ!」 本来の姿に戻ったレナードは、等身大のまま屋根から飛び降りて着地した。 「貴様!」 星人はトリガーを引いた。 しかし、強靭なレナードの肉体には、すでに銃弾は無力だった。 「デュワ!」 レナードは指先から緑色の光線―「フィンガービーム」―を放った。 星人の銃は吹き飛んだ。 「畜生!」 星人はカレンを放り出すと、レナードに背を向けて逃げ出した。 「デュワ!!」 レナードはそれを二発目のフィンガービームで仕留めた。 レナードはそこで変身を解いた。 人間体に戻ったレナードは、カレンの無事なのを確認すると、今撃った星人の元へ近づいた。 まだ息はあった。 「畜生…」 星人は言った。 「なあ、俺がさっき言いかけた、二つ目の理由…あれが何だったか分かるか?」 「……」 「それは、お前らにゃ俺を殺せないってことさ…」 「くたばれ…」 「お前がな…」 まもなく、星人は果てた。 「さて…」 そう言うと、レナードは落ちていた銃を拾って、それを5mほど先の干草の山に向けて撃ち始めた。 最初は手ごたえがなく、干草から砂埃が立つばかりだったが、20数発目でようやく反応があった。 「ぐお…」 という不快な呻き声とともに、干草の向こうで何かが倒れる音がした。 レナードはそちらへ駆け寄ってみる。 すると、そこには予想通りザンパ星人が倒れていた。 「気づいていたのか…?」 「俺が屋根の上から何も見なかったと思ったのか?」 「……」 「死ぬ前に一つ言っておこう」 「……」 「俺は自分のために戦う。だから、マゼラン星にも、ザンパ星にも、他のどんな星にもなびかんぞ!」 「長生きしたいとは思わんのか…?一匹狼ではいつか首を取られるぞ…」 「かもな…。しかし、少なくとも貴様らには渡さん」 「それはどうかな…?」 「……」 「くたばれ、レナード…」 「それはこっちのせりふだ…」 ザンパ星人はそのまま事切れた。 「所詮、同じ穴の狢ってわけか…」 レナードは苦笑した。 それから暫くして、カレンは目を覚ました。 「ここは…?」 大きな目をキョロキョロさせて彼女は言った。 「君の小屋だ…」 レナードは答える。 「あたし…、今まで一帯…?」 どうやら、ノーバに取り込まれていた間の記憶は無いらしい。それが唯一の救いかも知れないが…。 「眠ってたんだ」 「こんな時間まで、どうして…?」 「疲れていたんじゃないのか?毎日毎日、農作業と行商をしてるんだから…」 「そんな…。どうしよう…?」 「たまには良いんじゃないか?休んだって。誰も君を責めはしないさ…」 「そうかな…」 「そうさ」 「ねえ…」 「?」 「何かあったの?」 「いや…」 「ほんと…?」 「ああ…。退屈な一日だったよ。死ぬほどね…」 部屋を照らす、暗い裸電球を見つめながら、レナードは静かに言った。 オリジナル小説 第三十七弾! ウルトラマンA THE ZERO 第三十七章 悲しみを乗り越えて
翌朝ルナは、目を覚ました。
どれくらい眠っていたか分からない。 気がつくと、どこか病院のベッドに寝かされていた。 「ここは…?」 そう呟くと、病室の戸が開いた。 「おお。気がついたか」 シュペーマンだった。 「僕は…」 「お前は、基地の残骸の近くでクレアと一緒に倒れているところを発見されたんだ。二人とも衰弱しているようだったから、こうして病院に運んだんだが…」 ベッド脇の椅子に腰掛けながら、シュペーマンは言った。 ルナはハッとした。 「彼女は…、クレアはどうなったんです?!」 「大丈夫だ。怪我はしてたが、命に別状は無い。だから、安心しろ」 「そうですか…」 ルナは少しホッとした。 「しかし、不思議だよな…」 シュペーマンは言った。 「はい?」 「だってそうだろ?あの瓦礫の下敷きになったってのに、大した怪我はしてないってんだから…。普通なら、たとえ助かっても…」 「シュペーマンさん」 「?」 「良いじゃないですか。無事助かったんですから…」 微笑を浮かべながら、彼はそう言った。 クレアは、同じ日の昼頃になって、ようやく意識を取り戻した。 彼女も、状況を把握できずに戸惑っていたが、部屋に居たクリスに事情を聞き、ようやく落ち着いたようだった。 「助かったのね…私」 自分に言い聞かせるように、改めて彼女は言った。 「そうよ。みんな奇跡だって言ってるわ」 クリスは言った。 「でも、その奇跡を起こしたのは彼よ…」 ルナの顔を思い浮かべながら、クレアは微笑んだ。 「でも、そこが不思議なのよね~」 「え?」 「だってそうでしょ?あの状況ではどう考えても、ルナ君ひとりで、瓦礫を除けてあそこから脱出するのは時間的に不可能よ。いったい、彼はどうやって貴女を助け出したの?」 それは当然の疑問だろう。逆の立場なら、きっとクレアも抱いた筈である。 あらゆる法則や科学的知識を総動員して、何とかその疑問を解決しようと腐心したことだろう。 しかし、彼女は知っている。 自分を救ったのが、科学では立証できない、本当の意味での奇跡だったということを。 クレアは科学者である。 しかし、今は一人の人間として、その奇跡を噛み締めている。 「分からないわ。意識が朦朧としていたから、記憶が無いのよ…」 クレアは、御座なりの言い訳で茶を濁した。内心苦笑しながら。 ――科学者失格ね…。 左中指に光るリングを見つめながら、クレアは自嘲した。 同じ頃、ビリーは病院の電話を借りて、警察長官と話していた。 ――すでに巷では、CPK壊滅の噂が立ち始めています。今はまだそれほどではありませんが、今後ますます混乱が拡大することも懸念されています。 警察長官は言った。 どうやら、事態はビリーが想像していたよりも深刻らしい。 「何とか、混乱を抑える手立てはありませんか?」 ビリーは言った。 ――難しいですね…。どんなにしても、噂というものは自然に流れてしまうものです。悪い知らせなら、なおさらです。それに、下手に警察などが動けば、かえって民衆は動揺するのではないでしょうか? 「そうですね…。では、今後我々はどう動くべきでしょうか?」 ――とりあえず、民衆の恐怖や不安を取り除くことが先決でしょう。 「同感です」 ――そのためには、まず二度と怪獣がやって来ないという保障をする必要があると思いますね。 「それも同感です。我々だってそうしたいと思います。しかし、現状では、敵の居場所や戦力すら把握できていません。分かっているのは、敵がザンパ星人ということだけです」 ――つまり、敵が攻撃してくるのを、迎え撃つしかないということですか? 「残念ながら、そうです」 ――どうも、頼りないですな…。 「申し訳ありません」 ――まあ、こちらも一応、出来る限りの協力はしたいと思っていますがね…。 そう言って、相手は電話を切った。 そうなのだ。こちらは基地を破壊され、多くの仲間を奪われたにも関わらず、敵の事はほとんど何も知らないのだ。 こちらから討って出る事も、攻撃を未然に防ぐ手立てすら、無いのである。 今後、敵がどんな恐ろしい怪獣を送り込んでくるか、予想すら出来ない。 (これで、本当にこの星を守り切ることが出来るのだろうか?) ビリーは苦悩した。 (いったいどうすれば…。リュー隊長。あなたならどうなさいますか?) ビリーは自問する。
しかし、答えが返ってくるはずも無い。 そんな時、アルバートがやって来た。 「副隊長…。あ、失礼。隊長代行、たった今、クレア隊員も意識を取り戻したそうです」 彼は言った。 ビリーは苦笑して、 「副隊長でいい。その方がこっちも収まりがいいんだ。俺にとって、隊長はあの人だけだよ…」 と言った。 二人は廊下に出た。 薄暗い廊下は、誰も居なくて静かだった。 「これから、どうなるんです?」 ビリーは小さく首を振った。 「俺にも分からん。恐らく、そう遠くないうちに、敵は次の攻撃を仕掛けてくるだろう。その前に、こっちとしては態勢を立て直しておきたいが…」 「難しいですか?」 「指揮系統が滅茶苦茶だ。残存兵力もちりじりになっちまった。それに、スペーグスやあのテルテル坊主どもの襲撃以来、民衆は混乱しているからな。警察も軍も、そっちを抑えるので手一杯らしい…」 「つまり、彼らの協力は期待できない、と?」 「そうは言わんよ。彼らだっていざとなれば、こちらに協力してくれるだろう。しかし…」 「しかし?」 「最後に奴らと戦えるのは、結局俺たちしか居ないってことさ」 「我々の肩に、この星の未来が懸かっているんですね…」 「ああ…」 「重い…十字架ですね」 ビリーはそれに頷いてから、 「しかし、俺たちでなければ、他に誰が背負ってくれる?」 と、言った。 「そうですね…」 「いいか?今は感傷に浸っている時ではないんだ。ただ走り続けるしかないんだよ。棘だらけの、茨(いばら)の道をな…」 ビリーは、半ば自分自身に言い聞かせるように言った。すると、それを受けた形で、 「血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですか…」 と、アルバートはポツンと呟いた。 それきり、二人は一言も発しなかった。 ただ黙って、俯いていた。 端の黒ずんだ蛍光灯が、二人の頭上で不規則に明滅していた。 March 13 オリジナル小説 第三十六弾!!ウルトラマンA THE ZERO 第三十六章 一つの生命、二つの奇跡 人間の姿に戻ったルナは、先ほどクレアを残した辺りに駆け寄った。
「ところで、どうする気だい?」 ルナは、クレアの元に寄った。 いつの間にか、真っ青な地球は天頂に昇っていた。 オリジナル小説 第三十五弾! ウルトラマンA THE ZERO 第三十五章 愛と死の末に…
「貴様、どういうつもりだ?!」
敵を見つけようと、辺りを見回しながら、レナードは言った。 すると、ザンパ星人は笑って、 「ほほう…。この娘に目を付けたのは、どうやら正解だったな。天下の復讐鬼レナードが女の子の心配か。これは興味深い」 と言う。 「ふざけるな!彼女を解放しろ」 「嫌だと言ったら?」 「訊くまでもないだろう」 「おお、怖い。しかし、どうせお前には俺の居場所は分かるまい。だが、まあいい。帰してやろう」 「本当だな?」 「ああ。我々にとって、こんな人間の一人や二人、何の興味も無いんだ。こちらの条件を呑めば、帰してやろう」 「条件…だと?」 「ああ。たった二つだ。それも簡単な事よ…」 「お前らの部下になれという話か?」 「ああ。それが一つだ」 「もう一つは?」 すると、ザンパ星人は急に高笑いした。 「何がおかしい?」 レナードは眉をひそめて言った。 すると、ザンパ星人は 「そいつを殺せ」 と言った。 「何だと?」 「お前の隣にいる奴さ。ルナと言ったかな?」 「自分の言っていることが分かっているのか?」 「その積りだよ。我々にとって、彼は、君同様に厄介な存在でね…。あの方も処分に困っておいでだ。しかし、彼は今、君を親友と思って疑っていない。今ならば、君の手で、簡単に倒せるだろう。どうだ?」 「……」 「彼女の命を犠牲に、己の復讐と過去の友情を取るか?それとも、復讐と友情を捨てて、我々と共に生きるか?選択は君次第だ」 「こっちが約束を果たしたとして、そっちも約束を守る保障は?」 レナードは言った。 「無いな。ひとえに、相互の信用の問題だな」 ザンパ星人は言う。 レナードはうな垂れた。 それを見た、傍らのルナはようやく異状に気づいたのか、 「どうしたんだ?」 と、問いかけた。 しかし、相手は黙っている。 「レナード?」 すると、次の瞬間。レナードはいきなりルナの頬にパンチを見舞った。 鈍い音が辺りに響き渡り、ルナは倒れこんだ。 地上でそれを見ていたビリーたちは唖然としたし、ザンパ星人はほくそ笑んだ。 「何を…」 ルナが起き上がりながら、そう言いかけると、レナードは飛び掛って彼を地面に押さえ付けた。 「ルナ。聞け」 ルナは黙って頷く。 「ノーバの頭の中に、ある少女が居る」 「……」 「彼女はカレン。詳しく話している暇は無いが、彼女はかつて俺を救ってくれた。見殺しには出来ない」 「……」 「いいか?よく聞け。ザンパ星人は彼女をネタに、俺にお前を殺させようとしている」 「…!」 「恐らく、今この様子を見て、奴は油断しているに違いない」 「……」 「いいか?これから俺の言うことをよく聞け。成功するかは分からんが、賭ける価値はある」 そうして、暫くレナードはルナに自分の考えを話した。ルナは、それを黙って聞いていたが、話が終わると、 「無茶だ。下手をすれば、君も彼女も…」 「承知だ。しかし、やらないよりはマシだ」 「……」 「よし。始めるぞ!」 その合図で、レナードはルナを力ずくで起き上がらせると、一本背負いでたたきつけた。 ルナは、すぐに立ち上がったが、レナードはさらに追い討ちをかけるようにパンチやキックを繰り出した。傍目には、それはレナードが寝返ったように映った。 「奴も、所詮敵だったのかよ…」 シュペーマンが言った。 「何てこった」 とアルバート。 「ひどい…」 と、クリス。 しかし、ビリーだけは黙ってそれを見ていた。 「副隊長。ウルトラマンを援護しましょう。あの裏切り者を倒すんです」 シュペーマンが言った。 他の二人もそれに頷く。しかし、ビリーは首を縦には振らなかった。 「副隊長!」 「まあ、待て」 「何故です?」 「よく見ろ。ウルトラマンは、黒い巨人に全く抵抗していない」 「出来ないだけですよ」 「いや、俺はそうは思わない。二人には、何か考えがあるのかも知れない。もう少し、様子を見よう」 その判断は正しかった。 暫く、そんな一方的な攻撃が続いた後、レナードは 「よし。行くぞ!」 と言い、その直後、彼の身体は光に包まれた。レナードは、自分の身体を光エネルギーに変換したのである。 エネルギー化したレナードは、光の粒子となって、ルナの方に流れていった。ルナは、それを胸のカラータイマーで吸い込んだ。 すると、ルナは間髪おかずにノーバの方を向くと、腕をL字に組んだ。メタリウム光線である。 ルナは、エネルギー化したレナードを、自分の体内エネルギーと一緒に光線として打ち出した。七色の光線が、真っ直ぐノーバの頭に近づく。 もはや、あらゆる能力を失ったノーバは、自らに渡された引導を、黙って受け取るしかなかった。 そして、光の矢は、ノーバの頭を刺し貫いた。本体を失った身体は、糸の切れた操り人形(マリオネット)よろしく地面に崩れ落ちると、やがて華々しく散った。 それを見届けると、ルナは静かに消えていった。 そして、夜は再び静かな時を刻み始めた。
March 06 オリジナル小説 第三十四弾!! ウルトラマンA THE ZERO 第三十四章 デスマッチ!
ノーバは、妖しく目を光らせた。
すると、不意に宙に浮かび上がり、円盤形態になって高速回転しながらこちらに迫ってきた。 二人の巨人は身体を左右に滑らせて、それをやり過ごす。 しかし、ノーバはすぐにUターンして戻ってきた。 「うおッ…」 かわしきれずに、今度はそれが直撃したレナードは低いうめき声を上げた。どうやら、前の傷に触れたらしかった。 「大丈夫か?」 ルナは聞く。 「ああ」 「どうする?これでは埒が明かないぞ」 そう言っている間にも、ノーバはこんどはルナの方に向かってきた。 「撃ち落とすしかないだろう」 レナードは答えた。 「そうだな」 ルナはそう返しながら、側転でノーバをかわした。 そして「今だ!」というタイミングで、パンチレーザーを放った。 すると、間髪おかずに、今度はレナードが額からエメリウム光線を放つ。 二つの光線は、ほぼ同時にノーバに直撃した。すると、ノーバは白い煙を上げて地面に落下した。 「やったか?」 二人は、暫く落下した辺りを見ていた。すると、不意にそこから大量の赤いガスが舞い上がり、それはどんどんと広がって、やがて二人の居る辺りまでをすっぽり覆ってしまった。辺りは真紅に染まり、何も見えなくなった。 「気をつけろ。来るぞ!」 レナードは身構えた。 すると、その言葉を裏付けるように、すぐにルナは何かで背中を切りつけられた。 「うおッ!」 そして次の瞬間、今度はレナードがムチで頬を張られた。 「うう…」 ルナは透視光線でガスの中を見渡そうとした。しかし、敵の姿を見定めるどころか、1メートル先も見えなかった。 「透視光線は無力だ。このガスを何とかしない限り、奴は倒せない」 レナードは言った。 それからはまさに地獄だった。 反撃はおろか、防御すら出来ない二人の巨人相手に、ノーバはムチとカマで容赦ない攻撃を続けた。二人は、ただそれに耐えるしかなかった。 一方、二人の戦っている場所の近くに居るビリーたちも、ガスに苦戦していた。無論、ガスマスクは着用しているが、視界が利かないのは同じである。 「畜生。敵が目の前に居るってのに、援護も出来ないのか」 悔しそうに、ビリーが言った。 「いっそ、そこら中を出鱈目に撃ってみるか」 「駄目よ。そんなことをしたら、ウルトラマンたちに当たっちゃうわ」 クリスが言った。 「しかし、このガスのせいで、赤外線もX線も電波も遮断されてるんだ。もちろん、肉眼でも見えない。どうすればいいんだ?」 「一つだけ、手が…」 そういったのは、アルバートだった。 「何だって?」 半信半疑に、ビリーは聞いた。 「風を読むんです」 アルバートは答える。 「風?」 「はい。正確には気流を読む、という事ですが…」 「要領を得ないな。回りくどい言い方をしないで、率直に言え」 とシュペーマンが横から言った。 「はい。ノーバの全長はおよそ60mです。これだけ巨大なものが動けば、当然対流の変化が生じ、大気の流動が起こります」 「それで?」 「ですから、それを読むんです」 「どうやって?」 「実は、脱出時に持ち出せた機材の中に、大気の流動を測定する装置が入ってるんです。最初は捨てようと思いましたが、何かの役に立てばと…」 「すぐ使えるのか?」 「もちろんです」 「なら、すぐにやれ!」 ビリーが檄を飛ばすと、アルバートはシュペーマンと、ジープの荷台に積んだ機材のセッティングに掛かった。それを見ながら、ビリーは 「よし。俺たちは、武器の準備をしよう」 と、クリスを促した。 一方の二人の巨人は、依然敵の執拗な攻撃に苦しんでいた。 現状では、下手に攻撃も出来ない。もはや、お手上げ状態だった。 唯一、反撃のチャンスは、敵が自分たちを攻撃するために接近してくる瞬間だったが、幽霊のように音もなく動くノーバの気配を感じ取るのは容易なことではなかった。 二人の体力も、そろそろ限界に近づこうとしていた。「絶望」の二文字が、不意に何度も頭をよぎった。 そんな時、ガスの中に爆発音が響いた。
「何の音だ?」 レナードは言った。 「みんなだ」 ルナは言った。 「何?」 「CPKのみんなが、外から援護しているのかもしれない」 「馬鹿な。可視光線はおろか、あらゆる種類の光線を遮断するガスが充満しているのに、どうやって?」 その間にも、二回三回と爆発が起こった。すると、かすかではあったが、ノーバのうめき声が聞こえた。 「攻撃が当たっている?!しかし、どうやって?」 その時、不意にそよ風がルナの頬を撫でた。 「分かったぞ!風だ。気流だ!」 「そうか。気流の変化を読めば、見えなくても戦える!」 二人は、にわかに色めきたった。 二人は、皮膚感覚を研ぎ澄ませた。どんな小さな風も感じられるように。 そして、遂に 「そこか!」 と、レナードはアイ・スラッガーを放った。それは、鋭い金属音を立てて、何かに跳ね返って戻ってきた。どうやら、ノーバがカマで払ったらしい。 すると、それを見て今度はルナが、 「デュワ!」 と、同じ方向に飛び掛った。 すると、彼は明らかに何かに触れた。彼はすかさずそれをガッシリと両腕で捕えると、全体重をかけて押し倒した。 「ギャ!」 ノーバは咄嗟の出来事に、不気味な悲鳴を上げた。カマとムチを振って必死に抵抗したが、ルナは構わなかった。 ルナは、馬乗りになると、そのまま相手を何度も何度も殴りつけた。一発殴るたび、死んでいった者たちの顔が浮かんできた。 それで、少し意識が朦朧となったのか、ノーバは抵抗をやめた。しかし、相変わらずガスの放出は続けていた。 ルナは、手元の地面から、適当な大きさの岩を拾いあげると、それをノーバの口に押し込んだ。 相手は、再び苦しそうにもがく。それでもルナが動かないと、今度は目から怪光を発して、ルナの身体を吹き飛ばした。 ノーバはようやく立ち上がった。しかし、押し込まれた岩は、奥深く食い込んでいて取れなかった。 ガスの放出が止むと、辺りは次第に澄んできて、やがて目視できるまでになった。 すると、好機を得たとばかりに、今度はレナードがノーバに突進していった。 しかし、ノーバは今度は慌てることもなく、目から怪光線を発射した。光線を胸で受けたレナードの身体は後方に弾き飛ばされた。 「畜生。なんて野郎だ」 地上でそれを見ていたビリーは毒づいた。 「ガスが消えても、まだ奥の手があるってか…。なら、こっちにだって考えはある」 そういうと、ビリーはジープの荷台から照準器付きの地対空ミサイルを取り出し、それを構えた。 「おい、シュペーマン!CPKガンで奴を撃て」 彼はそんな指示を出した。その意外な指示に、シュペーマンが少し戸惑っていると、 「何をしている?早くしろ。奴の頬を狙え!」 とビリーが檄を飛ばす。シュペーマンは仕方なくそれに従ったが、依然狐につままれたような顔をしていた。 炸裂弾が、ノーバのテラテラと光る頬で弾けた。ノーバがこちらを向く。 「目薬はどうだい?テルテル坊主さんよ…」 ビリーはミサイルのトリガーを引いた。 ミサイルが、白い軌跡を残して、まっすぐノーバの落ち窪んだ目の中に吸い込まれていく。そして次の瞬間、ノーバの右目から火柱が上がった。 「ギャー!!」 ノーバが悶絶する。 すると、それを見ながら、ビリーは二発目を構えた。 「折角だ。もう一本どうだい?」 ノーバは左目からも火柱を上げた。 ノーバは両腕を振り回して悶絶した。その隙に、ルナとレナードはそれぞれ、ウルトラスラッシュとアイ・スラッガーを投げた。 二つの刃が、その両腕を飛ばした。すると、もはや持てる全ての武器を失ったノーバは、急に大人しくなった。見ようによっては、その姿は哀れでもあったが、それも自業自得というものだろう。 「よし、トドメだ。奴の急所は頭だ」 レナードがそう言った時だった。 ふと、どこからか声がした。 「レナード。お前に奴が撃てるのか?お前に殺せるのか?!」 それはテレパシーだった。 「ザンパ星人だな?それはどういう意味だ?」 レナードはテレパシーでそう返した。 すると、相手は笑って、 「それは、自分で考えることだ。クックッ…」 と言う。 レナードは急に胸騒ぎがした。 (もしや…) 彼は、ノーバの頭を透視して見た。 「あッ!」 予想通り、そこには一人の少女が閉じ込められていた。 「カレン…!」 オリジナル小説 第三十三弾! ウルトラマンA THE ZERO 三十三章 明日を賭けた戦い
まばゆい光は夜の闇を切り裂きながら、急速に広がっていった。そして、ある瞬間、地の底から湧きあがって来るような轟音と、大地を揺るがすような衝撃波が、隊員たちを襲った。
「キャアッ!」 他の隊員と、岩陰に身を隠しているクリスが悲鳴を上げた。が、それすらも轟音にかき消され、誰の耳にも入らなかった。 そんな、この世の終わりのような状態は、暫くの間続いたが、やがて閃光は消え、轟音と衝撃波も無くなった。後には、不気味な程の静寂だけが残された。 隊員たちは、暫く岩陰から動くことが出来なかった。足がすくむとはこのことだろう。この時、彼らは本当の恐怖を味わったのである。 「やった…のか?」 ビリーが独り言のように、ポツンと言った。が、誰も答えない。まだ、思うように口をきけなかったのである。 ビリーは仕方なく、一人で恐る恐る岩陰から顔を出した。 すると、さっきまで、そこに当たり前のように存在していた「あるもの」が、跡形もなく消え去っていた。 (俺たちの基地は、もう無いんだ…) それを改めて実感させられた。 そこには、夥しい量の瓦礫の山と、まだ赤々と燃える炎だけがそびえていた。 「副隊長…」 いつの間にか、後ろに来ていたシュペーマンが言った。 「ああ…」 ビリーは曖昧に相槌を打った。 「奴は、死んだんでしょうか?」 シュペーマンが訊いた。 ビリーは、そこで初めてハッとした。 (そうだ、そうなのだ。シルバーブルーメ…、あの怪物はどうなったのだ?) 「奴はどうした?」 ビリーは辺りを見回した。他の三人も同じ事をする。 「あれじゃないでしょうか…」 アルバートが指をさして言う。 「あれは…」 見ると、その先には、あの「クラゲの怪物」が横たわっていた。それは無惨にも触手を全て吹き飛ばされ、火ダルマになっていた。もはや、二度と動き出す事は無いだろう。 「勝ったな…」 その時、初めてビリーの目に涙が浮かんだ。 (隊長…。やはりあなたはすごい。あなたは、ご自分の命と引き換えに、あの卑劣な怪物どもを倒したんですよ…) ビリーは、内心そう呟きながら、黙って基地の方に敬礼をした。 それを見た三人も、黙ってそれに従った。 同じ頃、一つの青い光が燃え盛る基地の近くに舞い降り、やがてそれが消えると、後にはクレアと等身大のウルトラマンルナが残った。 ルナは抱きかかえていたクレアを、やさしく地面に寝かせると、テレパシーで 「もう、いいよ」 と、語りかけた。 彼女はゆっくりと目を開ける。その瞳には、徐々に銀色の戦士の姿が入った。しかし、彼女は別に驚きもせず、むしろ微笑して 「ありがとう…。ルナ…」 と、弱々しい声で答えた。ルナは少し意外な感じがした。 「どうして、驚かないの?」 すると、彼女は弱々しく笑って、 「知ってた…」 と言う。 「僕の正体を?」 クレアは小さく頷く。 「いつから…?」 ルナはそう訊きかけて、「いや」と首を振った。そして、 「どうして、今までそれを…?」 と訊く。 「あなたの口から言ってほしかった…」 「……」 「だって…、私…あなたの事を…」 と、そこで彼女は咳き込んだ。その口からはいつの間にか赤いものが滴っていた。 「喋らない方がいい」 ルナは言った。しかし、彼女は首を振って 「いいえ…。これだけは…、言わせて…頂戴。私は…」 喉に血が溜まって来たのか、その声はかすれて、ひどく聞き取りづらいものだった。しかし、ルナはそれを一言たりとも聞き漏らすまいと全神経を集中させた。 「私は…、あなたの事…を…、してる…から…」 「え…?」 「あなたの事を…、愛してるから」 彼女は確かにそう言った。ルナは何か、言い表しようのない衝撃に襲われた。 「愛…」 ウルトラマンにとっての「愛」。それは、他者を慈しむ心。或いは、親が子を、子が親を慕う感情でしかなかった。 ウルトラマンたちは、有機生命体ではない。男女が存在しても、両者の間に、月星人や地球人が抱くような感情は決して起こらない。生殖プロセスの大きく異なる非有機生命体は、相手を慈しむ事は出来ても、「愛する」事は出来ないのである。それは、遠い過去―M78星雲人がウルトラマンになった時に、失われた感情なのかも知れない。 当然ルナも、その両親も感じたことはない。他の多くの仲間も恐らく同じだろう。 しかし、ルナは今、確かにそれを胸の中に感じた気がした。ウルトラマンが決して抱くことの無い感情が。 それは、彼があまりに忠実に人間をコピーしすぎたせいかも知れなった。 だが、そんなことはどうでもよかった。ルナは今、目の前に横たわる一人の死に行く少女を救いたかった。どんな手を使ってでも。それがたとえ、彼の生命を削ることになっても… その時だった。 瓦礫の中から、赤いガスが舞い上がった。それはやがて一つの塊となり、巨大なテルテル坊主の姿をなした。 「ノーバ!」 ルナは思わず叫んだ。 多くの人間が、その命と引き換えに戦ったにも関わらず、まだこの怪物は平気な顔をしているのだ。ルナの中に、言いようのない怒りがこみ上げた。 「行って…」 そんな彼の耳に、そのか細い声が聞こえた。 「しかし…」 ルナは躊躇した。 しかし、クレアは 「私、待ってるわ…。あなたがあの…怪物を倒すまで…」 と微笑んだ。 ルナはその言葉にハッとさせられた。 そうだ。僕はウルトラマンなんだ。この星の人々を、卑劣な侵略者から守る戦士なのだ。 「分かった、行くよ。ただ、一つだけ約束してくれ」 「なに?」 「僕が戻るまで、絶対に死ぬな!」 「分かったわ…」 そう言うと、クレアは、ルナと指きりをした。 ルナは、その指をそっとほどくと、 「デュワ!」 と叫び、本来の大きさに巨大化した。 それを見送りながら、クレアは 「ルナ…」 と小さく言った。 「畜生!テルテル坊主の化け物が…。まだ生きてやがったのか!」 忌々しそうに、ビリーが言った。すると、 「副隊長。あれを…」 クリスがそう言って指さした。すると、その先には銀色の巨人が立っていた。 「ウルトラマン…」 ルナは、ノーバに向かって構えた。 すると、相手もそれに気づいたらしく、こちらを向いた。その顔は、こちらを嘲っているようにも見えた。 (お前だけは許さん!) ルナは「うおおお」と叫びながら、ノーバに向かって突進していった。 しかし、ノーバはそれを読んでいたというように、すばやく円盤形態に変形すると、さっとそれをかわしてしまった。 一方、オーバーランしたルナは、そのまま地面を滑った。 それを見たノーバは嘲笑するような声をだして、ルナを見下ろしている。あたかも「その程度か?」と言わんばかりに。 そして、ノーバは、起き上がろうとしているルナに対し、回復した右手のムチを振るった。 ムチは乾いた音を立てて、ルナの身体に炸裂した。 「うお…」 ルナは激痛に、思わず呻いた。 しかし、ノーバはそれでも容赦なくそれを繰り返した。ルナは、それに耐えるしかなかった。 その時だった。ルナの頭の中で声がした。 「ルナ、立て!」 すると、その直後、ノーバの横っ面に、強烈な一撃が炸裂した。ノーバはそのまま弾き飛ばされ、近くの岩山に頭から突っ込んだ。 それから、ルナはようやく顔を上げた。 「レナード!」 ルナは思わず叫んだ。 「だから、円盤生物には注意しろと言ったんだ」 ルナを起こしながら、レナードは言った。 「すまない…。つい感情的になってしまって…」 申し訳なさそうに、ルナは言った。 「お前は、昔から変わらんな」 「え…?」 その時、先ほど飛ばされたノーバが、やっと立ち上がった。 「ルナ。悔しいが、俺は今の状態では、奴を倒せない。今回だけ協力してくれるか?」 レナードは言った。彼は、前の戦闘の傷が、まだ完全には癒えていなかったのである。 「もちろんだ」 ルナは快諾した。 「感謝する」 そして、二人の巨人の戦いが始まった。 February 27 オリジナル小説 第三十二弾!! ウルトラマンA THE ZERO 第三十二章 正義は明星に死す
リューの放ったその一言に、長官をはじめ全員が驚いた。
「そんな…。冗談でしょう?」 ビリーは言った。 しかし、リューは首を振って 「君のいうように、私は恩人を捨てていけるような人間ではないし、そうでありたいとも思わない。それに、多くの部下の屍の上に生きようとも思わない」 「しかし、彼らの死は、あなたの責任じゃない!」 「そうだ。リュー君。気にしないでいきたまえ」 長官もそう言った。しかしそれでも、 「長官。そしてみんな。確かに、部下の死は私の責任ではないかもしれない。しかし、これが私の道なのだ。私は不器用な人間でね、こんな形でしか正義を貫けない。分かってくれ」 と、リューは首を振った。 「だったら、私もお供します」 「馬鹿もん!お前が死んだら、誰がこの星を守る?」 リューは、そう怒鳴ってからビリーの両肩に手を置いて、 「いいか。これからお前はこのCPKを、私や長官に代わって指揮するんだ。敵の襲来は恐らくこれが最後ではないだろう。お前は、部下とともに、この星を卑劣な侵略者から守るんだ」 と諭した。ビリーはもちろんのこと、全員がこの展開に戸惑いを隠せなかった。 「私には自信がありません…」 ビリーは言った。しかし、リューは首を振って 「いや。お前なら出来る、きっと…。だから、生きろ。そして戦い、きっと勝て。これが、私の最後の命令だ!」 「……」 「だから、二度と軽々しく命を投げ出そうとなどするな。みんなもそうだ。お前たちの命は自分ひとりのものでないことを忘れるな!」 一行は黙っていたが、心の中では大きく頷いていた。 「私は、お前たちがここを出てから15分後に起爆する。それまでにここを脱出するんだ」 と、リューは言うと、姿勢を正し、全員に向かって 「よし。CPK、全員出動!」 と、いつもの号令を掛けた。 「了解!」 全員それに答える。 本来ならば、涙があふれだしているに違いない。が、誰も涙を見せなかった。 「よし。俺とルナは一号機。クレアとアルバートは二号機。クリスとシュペーマンは三号機に分乗しろ」 ビリーは涙を振り払うかのように、テキパキと指示を出した。しかし、 「駄目です!」 とクリスが言った。 「なぜだ?」 「見てください。格納庫が…」 メインモニターには、格納庫の様子が映し出されていた。すでに、そこには敵の不気味な触手が侵入していた。 「畜生。仕方が無い。ジープで脱出だ!」 ビリーは言った。 「ジープは大丈夫ですか?」 とクレア。 「ああ。ジープの格納庫は地下にある。まだそこまでは到達していない」 「でも、それだと、暴徒化した隊員たちのいるセクションを突っ切っていかなければならないわよ」 不安そうにクリスは言った。 そうである。この作戦室は30階にある。ジープの格納庫は地下15階。普段は直通エレベーターが動いているが、今はそういうわけにはいかない。彼女の言うとおり、危険なセクションをいくつも通らねばならないのだ。 「直通のシューターのようなものはないんですか?」 クレアは訊いた。 「元フォックス小隊の作戦室にはあったはずだ」 長官が横から言った。 「この部屋には?」 「残念ながら…」 長官は申し訳なさそうに言った。 「フォックス小隊の作戦室は確か…」 「45階だ」 ビリーは言った。 「45階といえば、格納庫の近くだわ。急がなきゃ」 と、クレア。 「そのとおりだ。時間が無い。私がここからサポートするから、お前たちは早く行け」 リューが背中を押すように言った。 レナードはようやく基地の鉄条網のところまで来ていた。すでに日は落ち、星が瞬き始めていた。 MPの姿は無く、嫌に静かだった。 レナードは、バイクを乗り捨てると、懐からレナード・アイを取り出し「デュワ!」と変身すると、等身大のまま鉄条網を越えて飛んでいった。 同じ頃、一行は45階の旧フォックス小隊作戦室を目指していた。 作戦室のリューが、まだ生きている監視カメラを使って誘導してくれるお陰で、ここまで暴徒に遭遇することもなく、至って順調にたどり着いた。 そして、遂に45階までやって来た。 「あと、もう一息だな…」 アルバートが言った。 「油断するな。敵がどこに潜んでるか分からん」 その時だった。突然ガラガラというすごい音がして、天井が崩れ始めた。 「伏せろ!」 そして、暫くして崩落は収まった。
「どうやら、敵さんはすぐそこまで来ているらしいな…」 とシュペーマン。 「いだわぁ。怖い…」 と、クリス。 「とにかく行くぞ」 ビリーが腰を浮かせた時だった。 「キャア…」 と、苦しそうな悲鳴が聞こえた。クレアだった。 「どうした?」 ビリーが訊く。 「瓦礫が…」 彼が振り返って見ると、最後尾の彼女は、先ほど崩れ落ちた天井の下敷きになっていた。 「抜けられないか?」 ビリーは尋ねた。 クレアは首を振る。 「無理です。瓦礫が身体に深く食い込んで…。下半身の感覚がありません」 苦しそうに彼女は言った。 「畜生。瓦礫をどかしていたんでは、時間が…。どうすればいいんだ?」 ビリーは頭を抱えた。他の隊員も視線を落とした。その時だった。 「…て下さい…」 と、弱々しい声が聞こえた。耳を澄まして改めて聞くと、それは 「私を置いて、逃げてください」 と、聞こえた。 「何を言うんだ?隊長の言葉を忘れたか?俺たちの命は…」 「副隊長…。分かっています。でも、ここでこうしていたら…、みんな死んでしまいます」 と、クレアは言った。 虫の鳴くようなか細い声だったが、それは全員の心に響き渡った。と、その時、 「副隊長」 と、ルナが言った。 「僕がここに彼女と残ります。皆さんは先に逃げて下さい」 「どういう意味だ?」 「僕は彼女を必ず助けます。そして、一緒に脱出します」 「お前一人で、どうやって…?」 「僕には、一つだけいい考えがあるんです。信じてください」 とだけルナは言った。その目は強くビリーに訴えかけてきた。 「分かった…」 ビリーは言った。 「ただし、絶対に死ぬな」 「了解」 とルナは元気よく返事をしたが、 「しかし、副隊長…」 と、他の三人は言った。すると、ビリーはそれを制して、 「ルナを信じよう。今まで、何回も無茶はしてきたが、彼は必ず帰ってきた。今度だって同じさ」 と言った。 「それより、先を急ごう。もうあまり時間が無いぞ」 その言葉に、三人は不承不承同意した。 そして、ビリーを先頭に、一行は二人を置いて先へと消えていった。 それを見送ってから、ルナはクレアの傍に寄った。苦痛に歪んだ彼女の顔を優しく撫でた。 「ルナ…」 「クレア。もう一度だけ、僕を信じてほしい。必ずここから出してあげるから」 「信じるわ…」 「ありがとう」 「何をすればいいの?」 「目を閉じて」 「それで…?」 「あとは、祈って」 と、ルナは優しく微笑んだ。すると、クレアの表情も、心なしほころんだように見えた。 クレアはそっと目を閉じた。 「これでいい…?」 「ああ。上出来だ」 そして、ルナは両手のウルトラリングをそっと合わせた。次の瞬間、まばゆい光が二人を包み込んだ。 それから数分後、作戦室。 「遂に、この世も見納めか…」 フォース長官は寂しげに言った。すると、リューもそれに頷いて、 「ええ。しかし、これからですよ」 「何がだね?」 「この世界が、です。我々が死んでも、この世界は終わりません」 「あの若者たちが、私たちの遺志を継いでくれるから、かね?」 「それもあります」 「含みのある言い方だね?」 「はい。私はもちろん彼らを信じています。そして、この星の人々の強さも信じています」 「人々の強さ?」 「はい。今は確かに、恐怖に支配され、混沌としています。しかし、いつかはその恐怖に打ち勝ち、卑劣な侵略者に立ち向かう勇気を取り戻してくれると、私は確信しています」 「しかし、CPKがこうして壊滅的打撃を受けたと知れれば、混乱にますます拍車がかかるんではないかね?」 「暫くはそうなるでしょうね」 「だがそうなると、ビリー君たちも苦戦を強いられるんではないかね?」 「確かに、市民の協力が期待できないとなると、苦しいでしょうね。しかし、それでも彼らはやってくれますよ」 確信を持って、リューはそう答えた。 すると、長官は笑って、 「確かに、そうかもしれんな。何せ彼らは、逆境に立たされ続けた君と私の遺伝子を受け継いだんだからね」 と、言った。リューも笑う。 「もう、そろそろかな?」
腕時計を見て、長官は言った。 「あと、10秒で起爆です」 「無事、全員脱出できていればいいが…」 長官は不安げに言った。 リューは、ポケットから一本の鍵を取り出した。自爆装置の起爆スイッチのキーである。 彼は、メインモニター横にある鍵穴にそれをおもむろに差し込むと、右に90度ひねった。 「ピ…」 という起動音とともに、壁から一個の赤いスイッチが現れた。 リューはその前に黙って立つと、それに指を掛けてから、 「彼らなら、大丈夫ですよ。きっと…」 と言い、思い切り力を込めた。 同じ頃、外では、ようやく脱出に成功したビリーたちが岩陰に隠れて爆発の瞬間を待っていた。 「あの二人は大丈夫でしょうか?」 シュペーマンが訊いた。 「ああ。俺は信じるよ…」 その次の瞬間だった。 一瞬、耳がツンとなるのを感じた。 「いよいよか…」 次の瞬間、まばゆい閃光が全てを包み込んだ。 オリジナル小説 第三十一弾! ウルトラマンA THE ZERO 第三十一章 非常事態!!
その日の夕方のことだった。
MDFの正面入口に、奇妙な少女が現れた。年のころは17~8歳だろうか。 門番の二人のMP(憲兵)は当然それを制止した。 「君。どこから入った?ここは軍用地で、民間人は立ち入り禁止だ。鉄条網が張ってあったろう?それなのに、どうやって…」 「それより、どういうつもりでここに来たんだい?」 二人は口々にそう言った。 しかし、少女はおびえる様子も無く、無表情に 「決まってるじゃない。あなたたちを抹殺するためよ…」 と言った。 「何だと?!」 MPは顔を真っ赤にして怒鳴った。すると、どこから出てきたのか、突然赤いテルテル坊主が目の前に現れた。 「うわ!」 MPは悲鳴を上げた。しかし、手遅れだった。 テルテル坊主は口から赤いガスを吐き出し、辺りは赤く染まった。それを吸い込んだMPたちは暫く咳き込んでいたが、やがてその首に赤い鎖が巻きつくと急に、 「うおおお…」 という奇声を上げ、持っていた小銃を乱射し始めた。 騒ぎを聞きつけて、更に数名のMPが駆けつけたが、その二人が彼らを射殺してしまった。 すると、その様子を尻目に、少女はテルテル坊主を肩に乗せ、基地内へと消えていった。 この事態は、CPKにも伝えられ、非常召集が掛かった。 「何事です?」 全員を代表する形で、ビリーがリューに訊く。 「うん。どうも、基地の警備に当たっているMP隊員が、いきなり乱射騒ぎを起こしたらしいんだ」 とリューは答える。 「何てことだ。MDF隊員としてあるまじき事ですね」 「まあな。しかし、どうもそれだけでは片付けられそうにないんだ」 「どういう意味です?」 「うん。その騒ぎを起こした者というのが、どうやら一人二人ではないらしい」 「ということは、つまり…」 「ああ。敵襲である可能性が高い」 「そんな…」 その時だった。緊急内線のベルがけたたましく鳴った。 「こちら、作戦室」 と言ってリューは受話器をとった。 「こちら…、空調室です…」 相手は咳き込みながら、苦しそうに言った。 「何があった?」 「少女が…、赤い…テルテル…、ガスが…」 「何だ?何が言いたい?はっきり言え」 「……」 しかし、相手はそれ以上何も答えてはくれなかった。 「もしもし、もしもし?」 リューは何度もそう呼びかけたが、無駄だった。彼は諦めて受話器を戻すと、全員に向かって 「どうやら、ついに敵は我々の本陣までやって来たらしい。来たからには迎え撃たねばならん。総員、第一種戦闘態勢!」 「了解」 全員がそう答えた。が、その後で、 「でも、さっきの通信でガスがどうとか言ってましたよね」 とクリスが言った。 「ええ。私もそれが気になっていました」 とクレアも言った。 「そうだな…。では、念のため、防毒マスクを着用しよう」 リューは言った。その直後だった。 「隊長!あれは?」 ルナが空調用のダクトを指さして叫んだ。見ると、赤いガスがもくもくと吐き出されていた。 「早くマスクをつけろ!絶対にあのガスを吸うな!!」 リューは叫んだ。 すると、その間にも、さまざまなセクションから緊急通信が続々と飛び込んできた。 「こちら、動力室。突然ガスが…。ガスを吸った隊員たちが急に暴れだして…。ああ…!!」 「こちら、MP司令部。館内全セクションで、暴力行為が続発!とても対処しきれない」 「まるで、地獄だな…」
アルバートがそう呟くと、次の瞬間真っ暗になった。 「キャッ!」 クリスが悲鳴を上げた。 「心配いらん。すぐに非常灯がつく」 すると、その言葉を裏付けるように、薄暗い非常灯の明かりが作戦室を照らした。 「電源設備をやられたな…」 シュペーマンが言った。それは同時に、この基地のほとんどの機能が失われたことを意味していた。 「畜生!」 ビリーが机を叩く。 「いったい、誰がこんなひどいことを…」 その時、部屋の扉を叩く音がした。この扉は電動式なので、停電時には内側から手動で開けるしかないのだ。 アルバートが早速その作業にかかった。 すると、後ろから 「ちょっと待て」 とリューがいさめた。 「相手を確かめるんだ」 アルバートはそれに頷いて、 「誰だ?」 と問うた。 「私だ。長官のフォースだ」 と、相手は答えた。 「お通ししろ」 その合図で、アルバートは扉を開き、長官を入れると、またすぐに閉じた。 「よくぞ、ご無事で…」 リューは敬礼した。 「ああ。ガスが流れ込んだ瞬間、とっさにマスクを装着したのが良かった。他の参謀や兵士はみんな暴徒化してしまったよ」 「そうでしたか…」 「もはや、この基地は敵に完全に制圧されてしまった。場合によっては、最終判断を迫られるかも知れん」 「それはつまり…」 「左様。この基地を放棄し、自爆させる」 フォースはそう言い放った。 同じ頃、レナードは暴徒から奪ったバイクでMDF本部に向かっていた。 (俺のカンが正しければ…) すると、彼の頭上を何かがものすごいスピードで追い抜いていった。 「シルバーブルーメ…」 レナードはスロットルを全開にした。 その頃、作戦室にはある情報がもたらされていた。 「隊長。航空管理局からの緊急情報です。所属不明の飛行物体が、こちらに向かっています」 クリスが報告した。 「何?」 リューが言った次の瞬間だった。 「キャア!!」 基地が、何かの強い衝撃で激しく揺さぶられた。 「何事だ?」 長官が叫んだ。 「基地の上部に、何かが接触したみたいです」 「何かって…?」 ビリーが訊く。 「今、映像が出ます」 すると、メインモニターに何かが映し出された。不鮮明ではあったが、ビリーには、すぐに何であるかが分かった。 「あん畜生!」 それは紛れも無くシルバーブルーメだった。 「隊長、あれです。あいつですよ。この前武器庫を襲ったのは…」 ビリーが言う。 「ええ。間違いありません」 ルナもそれに賛同した。 「じゃあ、赤いガスの正体は…、もしかしてこの前の赤い円盤生物…?」 クレアが小さく呟いた。 「大変です!」 クリスが叫んだ。 「どうした?」 「基地上部の接触面から、急速に腐食が進んでいます」 「なんだと?」 「このままでは、基地全体が倒壊する恐れも…」 「反撃は出来ないか?」 リューは訊く。 「駄目です。多くの隊員が暴徒化した上に、電力が足りません。とても不可能です」 クリスは答える。 「畜生。武器庫だけじゃ食い足りないってことか…」 ビリーが歯噛みした。 「隊長。出動しましょう。バードで出撃すれば、攻撃も可能です」 「はやるな、ビリー。今の状態で攻撃すれば、それこそ基地の倒壊を早めるだけだ」 と、リューは彼をいさめた。 「では、どうすれば…?」 「バードで脱出するんだ」 「しかし、長官はバードのG(重力)には耐えられませんよ」 と、ビリーは反論した。 すると、長官は笑って、 「心配することはない。私はここに残るよ」 と言った。 全員の表情が凍りついた。 「そんな…。何を言うんです?あなたを見捨ててはいけない!」 ビリーは言った。 「いいんだよ。それに、電力供給が停止した今、基地を自爆させるには、誰かが残らねばならんのだからね。そうだろう、リュー君?」 と、長官はリューを見た。 自然と全員の視線がそちらに注がれる。 「はい…」 とリューは低い声で、短く答えた。 すると、ビリーはリューの元に詰め寄って、 「自爆って、どういう意味ですか?」 と彼の顔を覗き込んだ。 リューは暗い顔のまま物静かに答えた。 「現状で、この基地に巣食う二体の円盤生物を一気に叩くには、それしかないんだ」 「そのために長官を見捨てるんですか?我々が一番苦しい時期に、唯一人、力になってくれた人なんですよ」 「分かってる…。だが、見捨てはしないさ…」 「え…?」 「私も運命を共にする…」 |
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